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もう一歩深みがあれば。官能と狂気のサスペンス・ムービー ―『私が、生きる肌』―

『私が、生きる肌』 監督 ペドロ・アルモドバル


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 スペインの巨匠といわれるアルモドバル監督の作品。アカデミー外国語映画賞受賞作『帰郷(ボルベール)』を観た記憶はあるのだが(とてもスペイン色豊かな作品だったと…)、監督として記憶していなかった(汗)。

 ポスターの造りはいまひとつな気がしているのだが、久々のJ・ポール・ゴルチエの衣装コラボが気になった。

 天才整形外科医であるロベルは、人工皮膚の研究に没頭、その広大な邸宅を秘密の手術と研究所として、閉ざされた空間で実験を進めている。倫理違反に問われるほどの内容を持ったその実験への情熱の裏には、自分を裏切り、男と逃亡する途中の自動車事故で全身に大やけどを負い、そのショックで自殺を遂げた亡き妻を救えなかったことへの深い想いがあった。

 いま、その屋敷に軟禁され、実験の対象として、そして彼の理想を実現する存在として、亡き妻にそっくりの整形と皮膚移植を施され、究極の美しい肉体を作り上げられた女性ベラ。

 彼女はいったいどこから連れてこられ、そしてなぜその状態に置かれることになったのか。
 “完璧な肌”を持つ女の正体が、彼らの過去とともに明かされた時、ふたりの関係にもたらされた結末は――。

 ひとりの人間の愛と狂気が、天才の腕に宿ったとき、そこに発現した究極の行為を追い続けたサスペンス・ムービー。

 冷静で緻密、そして紳士なハンサム医師が、その紳士然とした沈着さで計画的に進めていく裡なる狂気を演じるのはアントニオ・バンデラス。
 スペインらしい情熱とダンディで、色気ムンムンのアクション・ヒーロー役の多い彼が、非常に抑制した演技でちょっと新鮮。

 また、みごとな肢体を惜しげもなく見せてくれ、その美しい表情で作品を輝かせるのが、ベラ役エレナ・アナヤ。
 ほとんど裸体といってよいくらいに密着した肌色のボディ・スーツで、ヨガの瞑想に入る彼女の映像は、すでにこの世界の異常さとそれでいて目をそらせない妖しい魅力を備えている。

 この館の家政婦長として、ロベルを支え、彼の研究を手助けするマリリアにベテラン マリサ・パレデスを配し、彼女の抱える過去も関わって、物語はベラの数奇な運命の衝撃とともに、危うく悲劇的な方向へと加速していく。

 ベラの人体改造の過程は、痛く、生理的に吐き気をもよおすくらいで、その映像が美しいゆえにより迫ってくるものがある。

 しかし、うーん…。
 愛と憎しみと哀しみと復讐の交差するこの危険な実験の中で、揺れ動き続けていたロベルが選択した道は、理解できなくはないものの、どこか釈然としないものが残る…。
 どう解釈をするかも、観者に委ねられてはいるのだが、振り子が振れきってしまったロベルの思考・行動がそれまでの彼の苦悩と恐ろしい行いから見るとあまりにも短絡・無謀としか見えない。最後の一線を越えた狂気の末が見えてこないのだ。
 これはもしかしてバンデラスの演技不足か……?単に私の読み取り不足か……?

 結局、人間は人間性ではなくて外見に左右される、としか受け取れない浅さに留まってしまったのが、物語がなかなかに衝撃的で複雑な心情を展開していただけに残念だった。

 とはいえ、映像美はみごと。人知れず監禁できるような洞窟まで持つスペインの古城に近代的なラボをガラス張りで作り上げているその対比、ベラの人工的な美しさと老女たちの人生を感じさせる表情、バンデラスのポーカー・フェイスの並列、そこに今回はややフェミニンなシルエットのワンピースと、バンデラスの肉体を被うビシッとしたスーツのデザインが活きている。ベラが着る花柄のワンピースが、物語の最後を結ぶ重要なファクターとなっているのも憎い。

 そして何より音楽がすばらしい。
 担当は、『裏切りのサーカス』も手掛けていたアルベルト・イグレシアス。
 オリジナルはもちろん、懐かしの作品をあるものはジャズ・サックスで、あるものはギターで、ピアノで、重厚に切なく流れるこれらは、監禁されているベガが、生きるなぐさめとするヨガの精神とルイーズ・ブルジョアの作品とともに、作品に荘重なイメージを賦与するのに大きく貢献している。(ブルジョアの作品をモチーフに使うあたり、監督のフェミニスム的な観点が透けてくる;日本では六本木ヒルズの蜘蛛の巨大な彫刻がある)

 やや物足りなさを残した巨匠アルモドバルの「問題作」。
 タイトルのとおり、「私(ベラ)が」「生きる肌」の内面が、ロベルの「揺れ」とともにもう少し強く出されたらよかったかも。
 サスペンスとしては楽しめる一作ではある。
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テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

やや冗長、栄光と決裂と転落のサーガⅡ章 ―『ベルセルク 黄金時代篇 Ⅱ ドルドレイ攻略』―

『ベルセルク 黄金時代篇 Ⅱ ドルドレイ攻略』 監督 窪岡俊之


Berserk_2チラシ
 楽しみにしていた『ベルセルク 黄金時代篇』第2弾。
 先の 『I 覇王の卵』で、すっかりグリフィスの王子様ぶりに魅せられた同僚の熱望で、クリアファイル(?)つき前売を買って(!)の鑑賞となる。(当然 “おまけ”は彼女の元へ…笑)

 さて『Ⅰ 覇王の卵』では、友と思っていたグリフィスのきつい一言に打ちのめされ、改めて己と彼との関係を思い、自らの道を模索した始めたガッツ。

 とある戦いで、体調不良のキャスカとふたり崖から転落、多勢の敵に囲まれたガッツは、彼女のグリフィスへの想いを聞いていたため、キャスカを彼の元に戻すべく、独り残って無謀な闘いを繰り広げる。
 取り囲む敵を身の丈以上の大きな刀でなぎ倒しながら、彼は考え続ける。
 グリフィスとは自分にとってどんな存在なのか、また彼にとって自分はどんな存在なのか、そして一晩で100人の敵を斃した伝説を作ることになったその朝、グリフィスと対等であるためには、彼の夢のために存在する「鷹の団」で彼の夢に埋まって生きていてはダメだという結論に達した彼は、団を抜け闘いの旅に出ることを考えるようになっていた。

 一方、ミッドランド国王の信頼を得たグリフィスと鷹の団は、100年になろうとするチューダー王国との戦争の最終決戦として、かつてはミッドランドの要塞であった難攻不落のドルドレイ城砦を攻略することを引き受ける。
 ミッドランドが誇った最強軍団さえも敗北を喫したこの城砦攻略に、自軍鷹の団のわずか5000で臨むと進言したグリフィス。周囲のやっかみと揶揄を受けながらも、敵の裏をかく戦略でみごとドルドレイを攻略、久しぶりに訪れた平和に、国王はもちろん、民衆も賞賛を惜しまず、グリフィスと鷹の団は、その勢いの絶頂を迎えるのだった。

 祝いの舞踏会で、最高位の白竜騎士の称号と隊長格の貴族への昇格が王より宣言された夜、さらなる高みへと登りつめていかんとするグリフィスの姿を見届けて、ガッツは静かに鷹の団を去ろうとする。

 その姿を見たキャスカは、自分の気持ちにもはっきりと気づかぬままガッツを追う。
 鷹の団結成時からの古参の仲間たち(ジュドー、ピピン、リッケルト、コルカス)もやってきて引き留めるが、ガッツの決意は揺るがない。
 そこに美しい瞳に暗い光を宿したグリフィスが立ちふさがる。

 「おまえは俺のものだ。どうしても去るというのなら、あの時と同様に自らの剣で奪い取っていけ。」

 グリフィスを理解し、尊敬し、そして大切に思うようになったガッツが、ふたたび彼の剣にひれ伏すことはなかった。
 ショックを隠し切れず、雪の中に跪くグリフィスを後に、ガッツは振り返ることなく去っていく。こんなことで折れるグリフィスではないと信じて。
 そこにはまた、座り込んだグリフィスを気遣いつつも、去っていくガッツの方が気になるキャスカの姿も残されていた…。 

 その夜、皆が心配して探していたグリフィスの姿は王宮の一角に現れる。
 一目見たときから彼の美しさと上品さに惹かれていたシャルロット王女の寝室…。
 
 あらゆるものを己の夢の実現のために利用し、使い捨てていくことのできる冷徹さを持っていたグリフィスだったが、いつの間にか、ガッツは特別な存在としてその心深くに食い入っていたのだった。
 この衝撃が彼の判断力を狂わせ、自暴自棄な破滅への道へと導いていく。
 
 シャルロットとの密通が露呈し、王の怒りに触れたグリフィスは捕えられ、最も残酷な拷問と幽閉の重犯罪人となる。
 傭兵出から時代の寵児へと躍り上った鷹の団も、わずか数日で反逆者集団の烙印を押され、ミッドランド王国からはお尋ね者として追われる立場に転落した。

 隊長の消息が分からないまま何とか逃げ延びた団員達、暗い地下牢でベヘリットも引きちぎられ、傷だらけで虚ろな目をしたグリフィス、彼らのこの状況をガッツが知る由もなかった――。

 あまりにも分かりやすい展開ながら、処々でグリフィスがガッツに(だけ)見せる笑顔や、キャスカの女としてのかわいらしさが、ガッツの不器用なまでの一途さとやさしさと信頼とリンクする、痛々しい決裂の章だ。
 それはまさにグリフィスとガッツ、そして鷹の団のもっとも楽しく幸せな時期としての「黄金時代」であり、その輝きが大きいゆえになお、転落の急斜が加速する。

 しかしこの劇場版、やたらと戦闘シーンの描写が長いのと、グリフィスとシャルロットの濡れ場が(不要に)綿密すぎて、話が大きく端折られている割に冗長な感が否めなかった…。

 確かに『Ⅰ 覇王の卵』篇では、その戦闘シーンの造りがCGの使い方やカメラワーク(風)の工夫で迫力がありかっこよかった。評判がよかったとも聞いている。そのため今回はもっとがんばっちゃったのか、ちょっとくどいな、と。今回のカメラアングル(風)では、画面に飛び散る“血しぶき”が注目だったようだが、繰り返しが多いし、俯瞰や鳥瞰などの展開は少なくて、飽きてくる。

 また、シャルロットとのベッド・シーン、原作ですら(およびTVアニメ版ですら)それほど長い情景としては描かれていないのに、まるでアダルト並みの描写と尺だ。グリフィスの表情のアップに見る絶望と投げやりな感じはともかく、ここまで必要か??

 一応PG12指定となっているらしいが、『Ⅰ』が未指定だったことを考えると、これはひどいし「いいのか?それで。」と。
 このままだと『Ⅲ章』はもっと観られない子が増えてしまうぞ…!
 
 原作ファンとしては、これら部分をもう少し短くして、ガッツと団員たちとの交流や、キャスカの心の動きの方を丁寧に描いてほしかった。
 (TV版では出てくる女王のグリフィス暗殺計画、つまりはシャルロットの母の存在(その後の王のシャルロットへの執着にとても大きな意味を持っていることにつながる)がすべて削除されているのは渋々譲るとしても…)

 さらに本作品では、CG製作のシーンが前作よりも多かった気がする。
 立体感などはよく出るのだが、どうも人間の動きがゲームのようなぎこちなさを伴うので、できれば普通にセル画にしてほしかったな、と。観ていて酔った感じになるのもちときつかった。

 ゾッドも出てこないし(泣)、戦闘&エロに終始した感のあるインターバル。
 やや残念な出来だったが、まあ相変わらず画面は美しいので、異常な世界へと突入する最終章のクリエイティブに期待しようか。

 そういえば、次回の予告への入り方も唐突だった…(途中まで本編の続きだと思って観ていた;笑)。
 「冬」としか告知されていなかったが、年内に観られるだろうか…。

 そして、どうやら番外編が連載されているらしい原作、「終わらないかも…」との作者自身のコメントがあるくらいなのだから、頼むから本編を進めてほしい……!

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いまだからこそ、スパイたちの滑稽と悲哀 ―『裏切りのサーカス』―

『裏切りのサーカス(Tinker Tailor Soldier Spy)』 監督 トーマス・アルフレッドソン


Tinker_Tailor_Soldier_Spy_チラシ
 宥めなだめて酷使していたPCがいよいよアウト、なまけ病が加速して、気づけばかなりのご無沙汰に。
 ようやく新たなPCも落ち着いたので、またちょっとずつ再開。
 読みためたもの、観ためたものを(遅ればせながら)アップしていきます…(汗)。

 スパイ小説の巨匠、ル・カレの原作を、ゲイリー・オールドマンを起用した作品。
 騙し合いと裏切りが複雑に絡み合い、会話に含まれる多重な意味が物語を示唆するスパイ小説は、どうも(私の頭では)うまく読み切れず、原作は未読ながら、ル・カレの名はさすがに知っている(笑)。
 その作品を大好きなオールドマンが演じているとなれば。いかにもベタだが邦題の暗さも気に入って。

 現代でも各国の諜報活動は、技術の発達ともにますます高度化、複雑化しているのだろうが、“スパイ”といえば、やはり東西冷戦時下がもっとも緊張感をはらみ、暗躍した時代だろう。

 MI6とKGBとの情報戦、相次ぐ情報漏洩と作戦の失敗に、MI6の諜報部隊「サーカス」のリーダー“コントロール”(ジョン・ハート)は、チームに二重スパイ「もぐら」がいることを確信する。その人物の特定のためにメンバーのひとりジムをプラハに送るが、任務は失敗、その責任を取って右腕であった“スマイリー”(ゲイリー・オールドマン)を巻き込んで引退を余儀なくされる。
 残ったメンバーで構成された「サーカス」は、スマイリーらの勢力を一新し、新たな組織として動き始めようとしている。一方退職したコントロールは死去、残されたスマイリーは、愛する妻にも去られ、独り空虚ながらも静かな日々を送っていた。
 
 その頃、フランスで活動していたターから、スマイリーに近かったために左遷されたギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)に連絡が入る。KGBの情報を持ち西側への亡命を求めるイリーナと出会ったターはその情報を「サーカス」へ送るが、翌日には彼女はKGBに拉致され、彼自身も逃亡せざるを得なくなる。身内に内通者がいることを確信したリーからの通報を受けたギラムは、MI6の統括レイコンに連絡、レイコンは引退したスマイリーにその裏切り者「もぐら」の探索を命じるのだった。

 スマイリーはギラムの協力を得ながら、“コントロール”の残した資料や機関内の記録をさかのぼって「もぐら」の正体に迫っていく。
 コントロールが疑いの目を向けていたのはサーカスの幹部4人。彼はこの4名にコードネームをつけていた。「ティンカー(鋳掛け屋)」、「テイラー(仕立屋)」、「ソルジャー(兵隊)」、「プアマン(貧乏人)」。そしてそこにはスマイリーも「ベガマン(乞食)」として「もぐら」候補に加えられていたことを知る。
 殺されたはずのジムの生還、ターが愛してしまったイリーナの安否、かつて出会ったことのある東側スパイカーラとの因縁、静かに、かつ冷徹に裏切り者の探索をするスマイリーがたどり着いた真実は…?

 スマイリーの回想による「サーカス」全盛時代の姿と彼の私生活の経緯、見つけていく証拠から推測される二重スパイの行動、現在の各人の動きの3つの映像が、ややくたびれたスマイリーのイギリス紳士然とした風貌の中に重ねられていく。
 
 カラーのはずなのに灰色のトーンが全体を覆い、モノクロームな印象の大人なハードボイルドに仕上がっている。むしろ回想である隆盛にあった時代の「サーカス」のシーンだけが、(やや色あせた)カラーとして印象に残る造りはみごと。
 また、そこはかとなく示唆される彼らスパイたちの私生活に、同性愛の要素が盛り込まれているのも、非常にイギリスらしく、これがストーリーにもうひとつの深みを出している。

 そして何よりも、ゲイリー・オールドマンの演技のすばらしさっ!!
 すっかり昔の勢いを失い、権力争いが表面化してきた組織への落胆、自身も歳を取り追い出されるように引退させられた非情、妻に裏切られ、去られた悲哀、独り目的を失って生きていく虚無感、そして内部の裏切り者を見つけなければならない憤りと痛み、それらが対KGBの優秀なスパイとしての本能ともいうべき冷静な判断力と際立った分析力、徹底されたクールな行動力に内包されているのが、淡々とした立居振舞いと表情にあらわれる。

 『レオン』や『フィフス・エレメント』『ハンニバル』などで、かなり危ないキレた役どころをこなしてきた(だから惹かれたのだが;笑)彼の演技力を改めて実感できる。重ねた年齢をそのまま滋味にできる、いつでも魅力的な俳優だ。ああ、やっぱり好きだなー。
 久々のキングス・イングリッシュもよい。

 周りのキャスティングも個性豊かだ。
 登場早々に死んでしまうボス、コントロール役のジョン・ハートは相変わらず存在感絶大だし、最近では『英国王のスピーチ』で印象深いコリン・ファースが「テイラー」役に、若いながらも将来性を感じさせる部下ギラム役のネディクト・カンバーバッチは、またみごとな英国ハンサムで(ふとした時に若き日のダニエル・ディ=ルイスを思わせる)、しょっぱなに撃たれるスパイジム役のマーク・ストロングはじめ、そのほかもヨーロッパらしい演技派が固めている。

 スパイの悲哀、人間の弱さや愚かさ、それゆえの愛おしさ、そしてハードな生きざまが、抑制された生き詰まる展開の中に凝縮された秀作。作品そのものがかっこいい。

 「サーカス」、それは滑稽と哀しみが同居する非日常の空間。
 この名を関したMI6のチームもまたその宿命を負っていたのではないか。
 そしてそれは、冷戦が終わった現在に、この命を懸けたスパイたちの行動がどこか滑稽な非日常に見える哀しさをも帯びて、原作がものされた時代ではなく、いま、観ることにより魅力を与えている。

 久しぶりにがっつりとした手ごたえある鑑賞に大満足。

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3Dの効果が活きるドキュメント ―『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』―

『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』 監督 ヴィム・ヴェンダース


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 『ベルリン―天使の詩』や『パリ―テキサス』、『東京画』で、詩的で静かな映像美を見せてくれてたヴェンダースが、3D映像を手掛けたということで、久しぶりに彼の作品を観に行った。
 このところドキュメンタリーが多い彼の作品、『東京画』でその力は分かっているものの、物語性が欲しくてなんとなくご無沙汰していた。

 ダンスはあまり接する機会のない私にはピナ・バウシュというダンサーについても知識は皆無。2009年に制作が始められようとしたその時にガンのために彼女が亡くなり、いったんは中断したものの、バウシュの遺志を継いだ弟子たちの励ましもあり、彼らのモノローグを交えて、追悼ドキュメンタリーの形として結実したものだという。

 彼女が振付をした四季を現わすゼスチャーを、舞踏団のメンバーが列をなして繰り返す映像から始まる。
 映画館の観客は、ちょうど舞台のそれを観ているような形で3D体験しつつ、各団員のアップによるピナへのメッセージと彼らのオリジナルダンス、彼女の舞台を再現した映像、そして二次元のピナ自身の舞踏映像がコラージュされていく。

 追想のピナのダンスシーンやインタビューシーンの二次元映像と、彼女に触発され、あるいは勇気づけられ、自信を与えられ、個性を引き出された舞踏団のメンバーのモノローグが、彼ら自身のオリジナルダンスと再現ダンスの三次元映像へとつながっていくその造りは、単に舞踏の臨場感や迫力を感じるにとどまらない3Dの魅力を引き出している。

 それは、敢えて映像の中に舞台を観ている観客のシルエットまで嵌めこみ、時にはドールハウスのようなミニチュアの世界に踊り手を配し、「映像としての3次元」を強く意識したものとなっているためだろう。
 追悼のメッセージを強く感じさせる2次元のピナの映像との対比もとても効果的だ。
 ハリウッドの最近の作品に見られるような、単純な3D化とは一線を画しているところがヴェンダースだ。

 そして何よりも、その詩情豊かで、温かい悲哀を湛える作品全体の空気は、『ベルリン―天使の詩』から変わっていない。
 
 崖の上で四季のダンスを列なして終わるラストへの円環は、そこまでに描かれる、ピナがその生涯をかけて追求した、人体という有限が自然や環境、感情や人生を無限に表現できる可能性と、そして彼女が形にしてきた実績が、その後継へと脈々と伝えられていくことを暗示する。
 センチメンタルなまでの情感が、なんとなくシュールな世界にストーリーにならないストーリーとして、みごとな映像美に結実している。

 また、後継のダンサーたちのオリジナル舞踏が、いずれもなんらかの軛や不自由からの解放を求めるようなテーマを持っているあたりは、東西ドイツ統一後の社会的な問題をも感じさせ、大戦後に分断されたベルリンを切ないラブ・ストーリーに描いた『天使の詩』に通じるか。

 もちろん、3Dとしての迫力は舞踏という映像にとても合っている。飛び散る汗、肉体の躍動感、舞台の奥行きの実感、どれもまるでその場で鑑賞しているような体験を与えてくれる(だからこそ舞台設定を入れ込んだヴェンダースの意図も活きてくる)。

 あまり映画が3Dであることに意義を見いだしていなかったのだけれど、こうした“造り”という技術として活かされた時、それはまた新しい魅力を持つことを教えてくれた。
 各自のオリジナル・ダンスも個性豊かで見応えがある。

 新たな技術を取り入れて、変わらないヴェンダースを味わえる。
 次回はぜひ、ドキュメントではないヴェンダース作品で会いたいな。

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サーガ発動、壮大なダーク・ファンタジー序章 ―『ベルセルク 黄金時代篇 I 覇王の卵』―

『ベルセルク 黄金時代篇 I 覇王の卵』 監督 窪岡俊之

Berserkチラシ
 TVアニメのラスト数週の激変した世界観のシュールさと残酷さが気になっていながら、原作を読んでいなかった『ベルセルク』。
 同僚が持っていることが分かり、現在刊行されている36巻までを一気に読了、その展開のスピード感、主人公ガッツの魅力、(スピード感があるのに)12年にも渡りいまだ終わるどころか善悪を混然とさせて拡がり続けるダーク・ファンタジーの壮大な世界に魅了され、さっそくコミックの所有者と劇場へ(笑)。

 どうやら「ベルセルク・サーガ」プロジェクトとして、黄金時代編すら3部に分けての製作とか…(わかっていながら“サーガ”と言われてちょっと臆したが…笑)。
 それだけ丁寧に造られているのだろうし、現代の映像技術でどこまであの異様な世界を再現できるのかも興味あり。

 時は中世ヨーロッパ。各国がその覇権を争い、傭兵と契約して戦争を仕掛けていた時代。
 戦争の犠牲になり殺された女の腹から産まれ落ちた孤児ガッツはとある傭兵の一軍に拾われて、そのまま兵士としての人生を歩みだす。
 とある事件をきっかけに、育ての親を殺害してその傭兵団を脱走、身の丈よりも大きな剣を持ち、自分の命そのものを試すかのようにより強い者へと向かっていく流れの傭兵として孤独な日々を送っていた。

 難攻不落といわれた城塞攻略の折、強豪兵士を一撃の元に倒したガッツを見ていた傭兵団「鷹の団」のリーダー グリフィス。
 ガッツとは対照的な線の細い輝くばかりの美男子ながら、みごとな剣さばきとたぐいまれな戦略家の頭脳を持ち、若い戦士たちに慕われて、各国からはその威力を頼られ、同時に怖れられていた。

 「お前が欲しい」と、ガッツを決闘で破ることで鷹の団に入団させたグリフィス、やがて3年を経て、ガッツは切り込み隊隊長としてその名を高め、孤高の剣士から信頼できる仲間や部下を得て、自らの闘い方を問い直すようになっていく。

 一方グリフィスは、鷹の団としての武勲を認められ、平民の出ながら異例の貴族の地位を獲得、王国の王女シャルロットとの関係を深め、ますますその力を大きくしていくのだった。

 グリフィスには大きな目的がある。「自分の国を得ること」。そのために彼はシャルロットへの接近、彼の出世を快く思わない貴族たちの粛清など、美しく輝きながら清濁あらゆる手段を使って、のし上がっていくことを非としない。
 ガッツはそのグリフィスを支え、野望を叶えることに協力していくことに喜びを感じ、友としての感情を抱きながらも、どこか心に空洞を抱えている。

 そんなふたりはある闘いで、人外の化け物と遭遇する。
 数百年前から人を殺し続けているという伝説の戦士ゾットは、実は雄牛のようなこの世のものと思えない異形の怪物だった。
 あわやこれまで、と思われた瞬間、グリフィスの胸に架けられたペンダント「覇王の卵―ヘベリット」を見たゾットは、ガッツに不吉な予言を残して空高く去っていく…。

 このふたりの運命的な出会いと強すぎるほどの絆が、やがて鷹の団の団員をも巻き込んだ大きな宿命へと流れ込んでいく予兆としてのゾットの言葉。

 そしてグリフィスから密やかに暗殺の依頼を受け、その後味の悪さに打ちひしがれていたガッツは、貴族の一員として舞踏会に出席していたグリフィスがシャルロットに語る言葉を聞いてショックを受ける…。
 その宿命の歯車が動き出そうとしていた――。

 このあと、いよいよグリフィスとガッツ、そして鷹の団唯一の女戦士キャスカにシャルロット王女を絡めて、中世傭兵物語は、非情で残酷なダーク・ファンタジー世界へと突入、「ヘベリット」の持つ真の力とその意味、グリフィスとガッツの悲劇的な対立へと物語は大きく変貌していくのだが、劇場版第一話はここまで。

 戦闘シーンや背景の描写にはCGを活用し、その迫力や美しさはみごとだ。
 ガッツが見上げる空の抜けるような輝き、単独で強敵の騎馬軍に突っ込んでいくガッツの動きをやや俯瞰のカメラアイで追う造りなど、ぞくぞくさせる。

 ただ、キャラクターがどれも美しすぎて、コミックの持つ荒々しさが感じられないのがちょっと残念。グリフィスはともかくとして、ガッツはもう少し逞しくてもよかったかな、と。
 ふたりが3年後に語り合うシーンなど、まるで恋人同士の睦合いのようで、ちょっとムズムズしてくる(共に観に行ったもうひとりの腐女子は完全に別コードで読みとっていた…;笑)

 また、鷹の団には個性的で魅力的な仲間がたくさんいるのだが、その存在感があまりなかったのももの足りない…。彼らとの繋がりがガッツを人間的に成長させていくだけにもう少し描いてほしかった。

 そもそも劇場版の脚本が、(映画としての尺の要請もありながら)コミック(またはTVアニメ)を読んでいないと流れが捉えられないくらい端折っているので、初めて観る人にはちょっと分かりにくいかも。
 ガッツがある意味人格破綻の孤高の戦士となった重くて暗い過去もはっきりしないので、鷹の団に入ってからの彼の平穏と焦燥のアンヴィヴァレントな心理状態もいまひとつ伝わってこない。(コミックでは黄金時代は3巻途中から;この既読者としては記憶で補っていた)
 宿命のふたりの出逢いを強調したのだろうが、ややグリフィスとガッツの(ラブ?)シーンに割き過ぎか…?

 あとは、声。
 TVアニメの印象が強かったこともあるが、全体的にちょっと甘いトーンになってしまっているかな、と。特に、気が強く、グリフィスには絶対の忠誠と憧憬を注ぎながら、やがてガッツに惹かれていくキャスカの声はTV版の方が断然よい。
 TV放映はかなり前だったけれど、そのままがよかったなー。(まあこれはそのうち慣れちゃうのだろうが)

 その中で、秀逸だったのがゾット!
 迫力ある造形も、声も、映像としての動きもとにかくカッコいい(怪物だけど)。本作品中、もっとも魅せられたキャラクター(怪物だけど)。

 まるでゲームコマンドが表示されそうな(笑)ゾットとガッツとの戦闘に向けた画面の動きもCGならではといったところ。(人の動きはゲームキャラのようなぎこちなさがあっていまいちなんだが)

 グリフィス(白)とガッツ(黒)の関係性に集約された劇場版。その意味では原作のテーマに忠実といえるが、行間が見えなさ過ぎてちょっともったいない…。
 そのふたりの絆と別離の予感を示唆するラストは、予想外のシーンだった。ここからⅡ章をどんな始め方とするのか楽しみだ。

 音楽はなかなかに雄大で切なさをもっていてよい。
 次章『Ⅱ ドルドレイ攻略』は6月とか。(最終章『Ⅲ 降臨』も年内らしい)ここから痛くてつらい、そして非常にシュールな伝奇が展開していく。

 「黄金時代編」3編を通し観るまで最終的な評価は保留。
 個人的にはゾットにワクワクしている(笑)。

 しかし、原作の方は無事に終わるのだろうか…。これは未完はいやだなー。


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