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軽くて重い民衆史のものがたり ―『転生夢現』―

『転生夢現』 莫言 吉田 富夫訳(中央公論新社)


 土地としても、民族としても広大な中国。
 共産圏というとことのためか、国内の情報はどうしても少なく、こんなに近いのに、意識として遠い国。
 毛沢東の共産主義革命、4人組の文化大革命、改革開放、政治の変遷としての知識はあっても、その時の実際の民衆の姿を垣間見ることはとても難しい。

 かの国を代表する映画監督チャン・イーモウのデビュー作で、1988年ベルリン国際映画祭で金熊賞にも輝いた『紅いコーリャン』の原作者による、50年代から現代までの、荒唐無稽、壮大な中国民衆の物語は、その厚さにも関わらず、ノンストップで読めるおもしろさ。

 文化大革命により、土地を奪われ、家族を失くし、命まで奪われるひとりの地方豪農の半世紀に渡る長い長い転生の物語である。
 人からロバ、牛、豚、犬、猿、そしてまた人へ、と「まだ生まれまわるの?!」と思うくらいに繰り返される輪廻の中でそれぞれの前世の記憶を持ったまま転生を重ねながら、自身の一族の周辺で、その変遷を見つめ続けるストーリーは、中国という国そのもののスケールに違わぬ、古典説話にも匹敵する”おとぎ話”となっている。

 しかし、”おとぎ話”といいながら、描かれている時代、社会、現実はとても重い。
 文化大革命の思想と行動が、地方に伝播した時に、どのように変貌し、歪みを生じるのか、結果その影響を受けた人々の心と生活がどのように変わっていくのか、悲劇と喜劇、弱さとたくましさ、醜さと美徳、純粋さとしたたかさ、大きな歴史的変遷に翻弄されつつもそこにコミットして「生きる」人間を描き切る。
 歴史的に見ればミクロな視点ながら、それゆえにこの時代の中国の姿がリアリティを持って迫ってくる。
 「主義」というものがたどる理想と現実の皮肉が抉りだされる。

 また転生する対象が、彼らの生活にとって欠かせない、あるいは当たり前のようにいる卑近なものであることも”生”を強く訴える。それらの生態の描写も、家畜やその糞尿の匂いまでしてきそうなくらいに見事で、本当に作者自身が経験したかのように具体的だ。このため、「動物への転生」というフィクションが少しも非現実的な印象をもたらさない。

 転生を繰り返すたびにそれぞれの動物の生涯の記憶や感情を重ね持っていくことで、主人公の怒りや怨とみが少しずつ変化していくさまが、時代の変遷とリンクしていく構成も精緻。

 面白く軽妙な物語に織りこまれているテーマは、中国における人民の姿に留まらず、私たちが”生きる”ということ、その喜びと辛さ、地に根ざした人間の生、性、精の、美醜を抉りだす。

 「転生」の「夢現」。
 まさに「胡蝶の夢」のお国。めまいを起こしそうなくらい大きくて奥深いファンタジー。
 そこに想起される情景も、結末も決して美しいものではない。むしろ生理的には嫌悪をもよおすほどに汚濁にまみれている。だからこそ、読後は爽快なくらいにその世界に浸りきった感慨が残る。



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