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ひさびさ”安楽椅子探偵”のケレン味 ―『ネジ式ザゼツキー』―

『ネジ式ザゼツキー』 島田 荘司 (講談社ノベルス)

 島田氏の作品に初めて触れたのが『切り裂きジャック 百年の孤独』だった。
 本格ミステリとか、御手洗潔とか、まったく意識せず、ただ19世紀末のイギリスの貧民街で起こった猟奇殺人に興味があり、そのタイトルで手に取った作品は、ひとつの犯人像、その動機の解釈のあり方として、面白い推理展開と、時空を超えて繋いだプロットにとても満足した。

 その後、彼の作品をしばらく追いかけたものの、やはり他の「本格」作家同様、魅力的だったキャラクター御手洗潔の存在があまりに大きくなり過ぎて、仕掛けそのものに無理を感じるようになり、『水晶のピラミッド』あたりで失速、パロディに傾くに至り、その”生みの苦しみ”が痛々しく、ご無沙汰になっていた。
 ミステリをシリーズで書き続けることの大変さを思いつつも、やはり”もっと”期待してしまう読者の勝手(許してほしい…)。

 いつものごとく乱暴に読み散らかしたため、(重ねて失礼ながら)詳細はほとんど覚えていないのだが、『占星術』『暗闇坂』『斜め屋敷』『龍卧亭』あたりは、相棒石岡とのやり取りも楽しんだ記憶がある。
 彼の筆力は舞台を外国にしてもあまり無理はないけれど、やはりクセの強い御手洗の性格が活きるのは日本の陰湿な空気の中で起こる事件の方ではないかと。

 このところの思わせぶりたっぷりのタイトルに警戒心(!)を抱いていた中で、タイトルが気なっていた本書、いまさらながらだが、職場の同僚が貸してくれたので、久しぶりに御手洗の活躍を拝見。

 いきなり外国の大学研究室にいる御手洗にまずは驚いたが、この間に彼に何が起こったのか知らないので流す(笑)。
 その研修室を訪れた記憶障害を持つエゴン。彼は自分がいるべきところが他にあるような気がして、日々が心もとない。その解明を望んで”ミタライ”に会いたいと望み、友人ハインリッヒに紹介を乞うたのだが、それすらも数分を経ると記憶から抜け落ちてしまう。
 そんなエゴンだが、なぜかある時点までの記憶と、自身が書いたファンタジー『タンジール蜜柑共和国への帰還』についてはとても詳細まで正確に覚えている。またネジと日本の日の丸に理由のわからない恐怖心を持つ。

 彼の脳が保持している断片の情報と、奇妙で非現実的な物語『タンジール蜜柑共和国への帰還』の内容から、探偵御手洗の推理が展開、奇妙でグロテスクな殺人事件が解明されていく…。
 現実にある国だと御手洗が断言する「タンジール共和国」とは?エゴンの記憶喪失の原因とは?ネジとは…?

 これ以上にない思いっきり”アームチェア・ディテクティブ”ものだ。
 現在から過去の事件を、それも現地でない他国の研究室で、限られた情報を博覧強記ぶり全開の知識で埋め、謎を解き明かしていく”ミタライ”は、石岡とのやり取りほどに毒舌はないものの健在だ。

 歴史的事実とその時代性、そしてそれが生み出した豊かな文化の中に、架空の人物を織り交ぜて展開される殺人劇とその顛末は、島田氏お得意の構築の上手さがよく出ていて期待どおり。
 ”ありえない”現象を、「あるもの」として現実に還元していく際の発想の転換、”ミタライ・ロジック”も活きている。

 そして今回、ファンタジーとして出版された『タンジール蜜柑共和国への帰還』という作中作品が、その情景描写、そしてストーリーの荒唐無稽さともにすばらしい出来だ。
 それゆえに、この物語、殺人事件の状況描写と思われるところでぷっつりと終わってしまっているのがなんとも惜しい…。タイトルまで「帰還」と意味合いを持たせたのならば、この作中作品もある形でまとめ上げてほしかった。(それほどにこの話が私には魅力的だった)

 確かにこの物語がこれ以上進むと”謎解き”のネタばれにつなががりかねないため、やむを得ない処理とも理解するが、おもしろくインパクトのある導入方法が、却って”わざとらしい”仕掛けになってしまったのがもったいない。

 事件の舞台/背景も、その時代設定とともに空気感のある堅固なものを持ち、被害者の造形もその設定にマッチしている。このあたりは、さすが島田氏、奥行きと重みが作品に付与される。
 犯罪が現したその情景も残酷で衝撃的でインパクト強く、人間の複雑な機能である脳の働きがもたらす、記憶の重層的混線とそのメタファーである作中ファンタジーが、ぐいぐい謎解きに引き込んでいく。
 
 さらに文章も、横書きの「現在」と縦書きの「タンジール・ファンタジー」または「過去の断片」とのふたつの次元を、実際の視覚的配置にまで対応させ、本の作りまで凝ったものになっている。
 しかしこの仕掛けについては凝り過ぎの感があり、それほどに効果的なものは感じられない。
 また、挿入された「ゴーレム」に関する断片も、さらに思想的な深まりを意図してのことだろうが、唐突感があり、中途半端な印象が否めない。繰り返しになるがその分を『タンジール蜜柑共和国への帰還』の完成の方に注いでほしかった…。

 ネットと電話を活用した”安楽椅子探偵”の最小限の行動と最大限の頭脳労働による推理で、ラストは事件の謎だけでなく、エゴンの抱える問題も解決。気持ちのよいエンディング、さっそうとした”ミタライ”の姿を残す。
 やや殺人の結果がもたらした現象に偶然性の要素が強く、電話/メールによる各所の協力もあまりにスムーズすぎてちょっと安易な進行ではあるが、ひとつの「ミステリな物語」としては楽しめる。

 著者にとっては必要だったのだろう最後に付加されたニューヨーク摩天楼に関するエッセイは、「本格」のあり方についての比喩を含めた宣言となっており、その歴史的・分析的視点と表現力には、『切り裂きジャック 百年の孤独』から変わらぬ彼の感覚と才をうかがわせて興味深いが、どうしても言い訳めいて聞こえ、個人的にはミステリの後に付けるべきものではないと思った。

 そんな「あとがき」のいらない”ものがたり”を紡ぎ出す力を『ネジ式ザゼツキー』は内包している。
 できるならタイトルもプロットも(本の造りも…)もう少し”ケレン味”を削ぎ落とした中で、その存在自体がケレン味たっぷりの名探偵”御手洗潔”(&ワトスン役の石岡)に出会えることを、あるいは新たな魅力あるキャラクターに出会えることを願う。


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