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少女たちの妖しい情念 -『少女外道』-

『少女外道』 皆川 博子 (文藝春秋)


 『恋紅』以来、そのたぐいまれな表現とストーリーの深さに魅せられ、ほぼすべての作品を”蒐集”している皆川氏。
 ミステリ、時代小説、怪奇譚、幻想譚とそのジャンルも、世界も限定することなく、短編も長編も(ほぼ)クオリティを損なうことのない、旺盛で豊かな才能を見せつけられる執筆の軌跡には、本当に感嘆のため息…。

 ことに女性らしいエロスと残酷を含み、読後の余韻たっぷりの幻想譚と、静かで芯の強い主人公が、時代に翻弄されながらも自身を失わずに生き抜く人間を描く歴史ロマンは、いずれも大切な作品として記憶に残る。

 久しぶりの短編集の刊行。可憐で妖しげなタイトルに、健在ぶりを感じて嬉しくなる。
 また装丁も美しい。アールヌーヴォー調の華に囲まれた少女のコレクト品のような小物の数々。各章の扉も、大正時代の少女誌を感じさせるレトロな花と玉があしらわれており、ページを開くとそのまま時代を遡って彼女の世界に導かれていく。

 タイトルの表題を持つ1篇を含めた7篇の幻妖譚。
 いずれも戦前から戦後に、少女または少年だった主人公の、回想と現在の時空の交差の中で紡がれていく、はかなくも残酷で、純粋ながらも(ゆえに)エロティックで、淡いのに強烈な印象を残す、一線を超えた者たちの”現実”と”異界”。
 まだ”大人”になりきらず、かといって分別を理解できないほどに無邪気でもなく、自らを見つめ考えるだけの知能を持った少年少女たちだからこそ持ちえた、背徳や禁忌、残虐がもたらすエクスタシーや甘美、醒めた哀しみの感覚を、不穏で不幸な戦争の時代背景や、当時の因習や村落に残っていた掟に絡めて、見事に描き出している。

 この世ならぬモノを、あるいは世界を視て、経験してしまった彼らは、その後静かに社会に足場を築きながらも、どこか現実から浮遊した分身を持って現在に在る。
 その”あわい“に存在した時代をそのまま抱え込んで今を生きる主人公たちは、時代の記憶が綴られていくに従い、ふたたび、またはようやく、その”あわい”へと自身を溶解させていく…。

    口に出してはいけない性癖を自覚した少女が抱え続けた悦楽
     ――「少女外道」。
    遠縁の大伯母の火葬に出席し、妖しい出遭いに踏み込んでいく男
     ―――「巻鶴トサカの一週間」。
    死産だった双子の片割れを追い続けた少女が想い、求めていたもの
     ―――「隠り沼の」。
    少年の残酷で美しい恋情と、そこに留めてしまった半身の記憶
     ―――「有翼日輪」。
    姪の眼から語られる、田舎の風習と世間体に狂わされた女性の物語
     ―――「標本箱」。
    戦時疎開地での少女たちの処世と闘い、戦争がもたらす皮相への静
    かな批判―――「アンティゴネ」。
    遠縁に預けられた少女が見つめ、そして見つけた田舎名士の没落と
    はかなくも激しい女の恋―――「祝祭」。

 あるものは当人の回想で、またあるものは、血縁のある/ない第3者の視点から描き出されるそれぞれの戦時。
 裕福な家に育った少年や少女が、近くに住んでいた労働者の家族に、またはある事情で遠縁に預けられ、あるいは疎開先の田舎で、眼にして、感じるものやことが、大人びた視線で、静かにしかしとても強烈な記憶の風景として、描き出されていく。
 そこに、戦時中の歌や遊び、出兵の壮行会や大人たちの言動が、浮かび上がるように効果的に織り込まれている。
 決して饒舌ではなく、声高でもないのだけれど、醒めて冷静な子どもたちの目線で語られることで、却って時代の理不尽や不幸が浮き彫りになっていく。

 これらを基底に持つからこそ、少女たちがまとうエロスが、より妖しさを帯び、幻のような哀しさとともに、現実を超越していくのだ。
 このあたりの奥行きと空気の造りは、まさに皆川流、本領発揮。
 少年少女の芯の強さと、現実の立場としての無力さに対する自覚や世界を見る視線に、その年代特有の瑞々しさと意地悪さを併せ持っているのがすばらしいし、過去と現在の並列の仕方も各章でバリエーションを持っており、ワンパターンに陥らず、読み進めるうちに、すっかりその世界に幻惑され、余韻に酔いしれる。

 そしてとにかく、一つひとつの文章の美しさたるや…!
 リズムといい、“ことば”といい、他にはない絶品である。(特に「祝祭」のラストなど絶句…)

 『少女外道』―――少女(少年)たちだからこそ持っていた、血の匂いを感じさせるドロドロとした情念は、冷ややかさと熱さとを併せ持ち、まさに「外道」というにふさわしい“大人にはない”危険で甘美な悪徳として浮かび上がる。
 戦争という非常事態の中で咲いたこれらの”徒花”は、その時代だからこそより匂やかに開き、そして彼らの“今”すら飲みこんでいく…。

 ああ!相変わらずみごとな短編集。
 本当に出遭うたびに喜びをくれる最高の作者のひとり。


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