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ちょっとブレイク・7 妖異譚のモザイク獲物帖 -『耳袋秘帖シリーズ』-

『耳袋秘帖』 風野 真知雄 (文春文庫)


 このところ低迷している読書からすると、ブレイク続きなのだけれど(笑)。
 同じく怪異や時代ものが好きな職場の同僚が手軽に読めるよ、と貸してくれたシリーズ3作。

 ”耳袋”となると、江戸の怪異をネタとした妖異ものかと思いきや、『鬼平犯科帳』を思わせる獲り物がたり。
 若い時には色々と悪さをしていた”赤鬼”の異名を持つ、老齢の南町奉行肥前守が、妖かしの仕業と言われる江戸の怪異現象から事件を解決、悪人を捕えていく痛快時代小説。

 彼が使役する部下に、色男で醜女好きの宮尾と、気性の荒い姉に頭の上がらぬ腕力には自信を持つ熱血漢椀田、岡っぴきの梅次や女がてらに聞き込みに能力を発揮する”しめ”らが集い、市井の声を聞きながら、事件の核心へと迫っていく。
 
 神隠しのように消えた若旦那が10年後に戻ってきたという怪異、それを敷衍するかのように「かのち」という謎の書付を残して疾走した若旦那の目撃譚、夜ごと奏でられる不思議な尺八の音色と、それに魅せられる人々の怪しげな集い。そこに見え隠れする虚無僧の姿…。そしてもろこし屋の主人が殺害された事件に影の殺人組織の存在を見た根岸肥前守は、旗本の子息を殴って謹慎中だった椀田と、家人の宮尾に命じて調べを進める第1弾『妖談うしろ猫』。
 根岸の飼う猫が、なぜか人間にその顔を見せず常に後ろ向きでいる不思議と結びついた時、事件は思わぬ展開を見せる――。

 当時は寂れた竹林の高田馬場に住まう美人の若尼僧。その美しさと人生相談で評判になっている尼の庵近辺で連続する殺人事件。死体はいつも剃刀のようなもので、惨殺されていた…。
 一方で、江戸の町には油壺から油まみれの小僧がぬらりと出てくる怪異があちこちで目撃されていた。その異様な姿に男たちは気味悪がるが、なぜか若い女からは「かわいい…」との声が…。さらには根岸の昔の悪仲間だったスリの達人が、その異名をとることになった事件、賭博のいかさまの落とし前のためにマムシに指を咥えられたエピソードを持つ、マムシと指の”黒焼け”が出現して…。
 宮尾や椀田、そして梅次やしめを使って、それぞれにどこか妖しげな要素を持った現象を調べていくうちに、そこにも影を落とす「闇の殺人組織」の存在が――第2弾『妖談かみそり尼』。
 
 月夜の晩に4人並んで渡るとそのうちのひとりの影が消える。その人間は数日後には命を落とす――。四人の音から「死人橋」と名付けられた、下町を震撼させた怪談に興味を持つ根岸。同時に、麻布のとある旗本の屋敷の崖が崩れ、そこから奇妙な石像が現われた。何の神さまかも分からぬままに、巷ではその石像を参るのが流行りになっているという。
 神田では湯屋の一軒で、転落事故による死者が出た。覘きを試みた職人が屋根から落ちたと思われたこの事件、よく調べてみれば、混浴の湯屋で、しかも時間帯としても奇妙なことが多く、どうやら他殺の疑いが出てきた…。
 いつもの通り、それぞれの噂を突き詰めていくうちに、大きな犯罪の影が見えてくる第3弾『妖談しにん橋』。

 「耳袋」(根岸の作という設定)のエピソードを紹介しつつ、その類似の現象が一見なんのつながりもなく同時多発的に江戸の街に出現する。
 それぞれは、殺人事件を除いて、街に噂される不思議や怪異譚でしかないのだが、それらが繋がり事実が明らかになるときに見えてくる事件の全貌、そのたくさんの細やかなエピソードを織り込んだモザイク構成はいずれの作品でも緻密で面白くみごと。
 (まるで先の『ガラスの鍵』のシンプルさと対極のプロットの上手さを見るようだ(笑))

 またその過程で、小さな市井の出来事としてさらりと解決するネタの織り込み方(肩透かしの要素)も上手く、読者はどれが事件の核心に関わってくるのかを予測し、推理し、楽しみながら読める。
 さらには、あくまでも現実の犯罪や仕掛けで解決される”妖談”を主軸としながらも、猫の不思議な活躍や、根岸の死んだ妻おたかの存在を感じさせるシーンなど、怪異の要素を残しているところも憎い。

 特に2作目『妖談かみそり尼』では、現代のトレンド・セッターと言える存在とそれに踊らされる少女たちが描かれており、今の感覚とこの時代でも当然あったであろう消費時代の要素を上手く結びつけた展開が江戸という街を活き活きとさせ、なかなか面白い。

 人物もあまりくどくなくさらりと描写されている割には個性が明確で、だんだんと活躍の場が増えていくそれぞれの人間関係の布石はシリーズの進行に伴って深化する予感をもつ。根岸も軽やかな感性と好奇心の強さに、老齢のしたたかさと穏やかさを持っていてバランスがよい。
 ただ、主人公の根岸があまりに『鬼平犯科帳』の長谷川平蔵にダブることと、彼の先読みの力が余りにも人知を超えていて(同僚は「一をもって十を知る」と(笑);千里眼か…?)ややご都合的かな、と。
 そのせいか(年齢がもっと枯れた設定のせいか)悪行の過去を持つ根岸だが、平蔵がまとっていたような哀しみや重み、深さはあまり感じられない。なんだか飄々としている。

 大きな敵として設定される「闇の殺人組織」には、国を超えた存在が示唆されている。このあたり、『鬼平犯科帳』よりも時代が下った設定としては、その目的と意味の解明、そしてどのように根岸とその一味に絡んでくるのか、それぞれの登場人物の絡みや明らかにされるであろう過去とともにちょっと楽しみだ。

 どうやら他の出版社でかなりのシリーズが出ているらしいのだが、そちらは未読。過去の作品も気になるところ。
 時代ものは割と入手しやすい古書店でも当たってみるか(笑)。






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