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異界の市が織り上げる妖しと哀しみ ―『夜宵』―

『夜宵』 柴村 仁 (講談社)


 最近函入りのミステリが多い講談社。
 ちょっと変わったカバーの妖しげなイラストが気になった。

 ただ一本の木造の橋と、小さな船での行き来しかできない島。「街」との交流がほとんどないこの島で、大晦日までのわずかな期間だけ開催される「細蟹の市」。そこは人間の欲望を満たすあらゆるものが集められ、手に入らないものがない。集う者は面をつけ、人ならぬものに成り、あるいは人のふりをして取引を成立させる。それはこの世にいっときだけ生まれる異界。

 市に入るには一定のルールがある。
 しかし時にこの市の噂を聞いて、このルールを知らずに入り込む人間がいる。彼らは市の者にとっては格好の餌食だ。
 そんな迷子「マドウジ」を保護するのが、赤腹衆のサザ。髭のない翁の面をした彼は、それ自体が活きているように動く黒衣をまとい、市の治安を守る。

 薬を求めて入り込んだ者、行方不明になった少女を探しに侵入した者、この世ならぬ色を求める者、彼ら「マドウジ」を救おうとするサザと、彼らが背負っている“業”が明らかにされる“経”の糸と、目覚めた時には市にいて、記憶を失った少年カンナとサザとの交流を追う“緯”の糸で交互に織りなされる物語は、毒のあるミステリの要素を持ちながら、カンナと織女まこととの哀しい恋を描き出していく。

 混沌のある場所に現れる「ウツロ」、不吉な予言を垂れ流す双子の少女、街からサザを慕ってやってきたナキ、現実とこの世ならぬ世界の異形が集い、新たな年を迎える直前に出現する境界の時空。
 そこを取り仕切るのは「夜宵」と呼ばれる胴元、そしてすべては市の名前である「細蟹さま」に捧げられる夜毎の祭り。
 そして細蟹さまは、市の者のために機を織る。営々と、途絶えることなく…。

 廃墟に蝋燭と提灯で赤々と同時に朧ろに照らし出される、目抜き通りといいながら坂や階段でいつのまにか闇の集まる細い路地に入り込んでいる迷路のような市の雰囲気が、恐ろしくも儚い、そして幻想的な毎夜の悪夢をとても自然なものにしている。
 同時に微妙に絡んでくる現実世界での人間の欲と罪が、この幻夢的な市の存在やそこに巣くう異形たちの闇よりも昏く、重たいものとして暴かれるつくりもよい。

 その中で、カンナの成長と共に明かされていく「細蟹の市」の姿は、哀しい思いを抱えながら、そして最後まで見えない不思議を残しながら、これからも人々に語られつつも、密やかに開催されていくだろう存在感を残す。

 カンナとまことの恋の行方は昔話によくある「贄」の物語として予測可能ながら、それゆえになお懐かしく、この物語の世界観に合致する。また、最後に残るまことのある意味残酷な思慕の情が、より「細蟹の市」の妖しさを感じさせ、恐ろしくも魅力的な異界の印象を強化する。

 緯経の糸で組まれた構成もだけれど、最後まで読み進めた時、サザとカンナの役割が重なり、それまでの物語の時間軸があやふやに遡ることを可能にし、メビウスの輪のようにゆらゆらとそれぞれの物語に戻っていく造りにゾクゾクした。

 「ウツロ」や双子の存在がもう少し明らかになってもよいな、と、そしてこの物語で新たな世代に担われることになった「細蟹の市」をもう少し覗いてみたい、そんな続編を期待してしまう一方で、謎を謎のままに残し、いまこの時も、どこかで立ちあがっているだろう「細蟹の市」を想像するにとどめておきたいような、余韻を残すお気に入りの一冊となる。


 今年はここまで。
 いまだ展覧会評も読後感もいくつか残したまま、切りの悪い年の瀬になってしまった反省を持ちつつも(汗)、新年の夜明けとともに忽然と消える、妖しい市の魅力で区切り、と(笑)。


 みなさまよい一年を迎えられますように。



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テーマ : 読書記録
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