スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

“ルドン”を吸収した象徴主義を散策 ―『ルドンとその周辺―夢見る世紀末展』:その2

続:『ルドンとその周辺―夢見る世紀末展 グラン・ブーケ収蔵記念』 (三菱一号館美術館)

O_Redon_14
 ルドン展つづき。

 第3部 ルドンの周辺―象徴主義者たち
 ルドンの幻想豊かな黒の世界は、ユイスマンスの『さかしま』などにより、同時代のアーティストに影響を与え、やがて文学運動から発展していった象徴主義に彼の作品も数えられていくようになる。
 印象派が外光を使いそこに在るものを描いていくのに対し、象徴主義は目に見えるものを超えた精神や想像の世界に本質を求め、それらを“かたち”にしていくことを目指した。このためそれぞれの個人的な感受性と解釈がなされ、描かれるものはその画風も印象も多岐にわたる。

 ここでは、ルドンに影響を受け、あるいはルドンが影響を受けた、広義での象徴主義に属する各国の文化やアートに焦点を当て、そこから彼の作品の位置づけを確認できるようになっている。

Moreau 入ってすぐに出逢えるのは、象徴主義の先駆者として位置付けられるモローの作品。
 小品ながら非常に繊細で完成度の高い≪聖セバスティアヌスと天使≫は、中性的な美しさを持った聖セバスティアヌスと装飾的な天使、空に輝く星の表現などがとてもモローらしい一作。

 …しかし展示位置が高すぎてよく見えない…。毎回思うことだがこの美術館、すべてをとは言わないが、暖炉の上に展示するのをやめてほしい…。せめて作品のセレクトを。確かに飾られた空間はそのものとしては落ち着いていて“絵になる”。だが「作品」を観に来ていることももう少し考慮してくれたら。こんな30㎝にも満たない作品を見上げなければならないのはきついし、作品もかわいそうだ。

 もう一点の≪ピエタ≫は、国内にあるものとしては大きめ。真っ暗な空と荒涼とした大地(ゴルゴダの丘)で死せるキリストを背後から抱いて悲しみに暮れるマリア。二人の頭上にはニンブスが光り、キリストの白い肉体とだけが暗く沈んだ画面から浮かび上がる。マリアの表情はマントに隠されて判然としないが、全体を悲しみが覆っている。1章で観たルドンのデッサン≪守護天使≫を想起させる。

Bresdin_2 その後には版画の師匠であったブレスダンの作品が並ぶ。
 『さかしま』にも描写される≪死の喜劇≫、≪善きサマリア人≫も観ることができる。どちらも「これでもか」というくらいさまざまな要素を詰め込んだ細密画となっており、かつそこに描かれるあり得ない自然の描写には、不思議な動物や植物、あるいは怪物があちこちに埋め込まれていて、ちょっとした「モチーフ探し」に必死になってしまう。
 今回は全体的にも高めの展示位置だったので、必死に体を伸ばして、張り付くように観入ってしまう(周囲の人にごめんなさい…)。

Bresdin_1 特に≪死の喜劇≫は、樹の上ではしゃぐ骸骨から、いろいろな形状のふくろう、樹の枝にぶら下がる得体の知れない顔、龍のような貌を持つ樹木、水辺の蛙と猿の混合のような生物、人間と合体したような蝙蝠など、次々と現れてくる怪奇な生き物に魅せられる。彼らの方が活き活きしており、左中央に描かれたキリストも、幹に持たれる老人も、樹の洞で頭を抱える人間も、その存在ははかなく薄い。
 タイトル合わせてちょっとヒエロニムス・ボスの『悦楽の園』を思いだした。

 そしてドイツからはマックス・クリンガーが!
 ファム・ファタル(フランス語だけど;笑)の物語そのものの、美しい女性に恋焦がれて破滅していく男の恋情を、欲望と妄想の中に描き出す彼の神経症的な作品は大好き。

 今回は 版画集『手袋』から全葉が展示されていて、大喜び。
 ローラースケート場である女性が落とした手袋を拾った男のフェティッシュな妄想が描かれて、現実と夢想がないまぜになっていく連作。

Klinger_1 「Ⅱ.行為」は、彼の恋慕の対象となるのだろう女性の後ろ姿を中央に、その手前に自分の帽子を落として手袋を拾う男を、そして奥にスケートをするグループがみごとな対照をなす斜線の構成で描かれる。全体として左に傾ぐ線の中、ひとり右に傾く宿命の女性がひときわ目を引くこの造りに毎回ワクワクする。
 そこから届かぬ想いに苦悶するのか、手袋を前に泣く(「Ⅲ.願望」)、自身を英雄として彼女の危機を救うかのごとく嵐の海に浮かぶ手袋を捉えようとする(「Ⅳ.救助」)、彼女に支配されることを望んでるのか手袋に操られる海馬の風景(「Ⅴ.凱旋」)など、自虐と自賛、悲哀と歓喜、どちらとも捉えうる、多義的でフェティッシュな世界が展開される。
Klinger_2 やがて、手袋はプテラノドンのような翼竜に咥えられて略奪されてしまう。それをガラスの破れた窓から必死で捉えようとする腕が見え(「Ⅸ.誘拐」)、最後には、愛の象徴である薔薇の花のもと手袋は休らい、そばには妖精の羽を持ったキューピッドが意味深な視線をこちらに送る(「Ⅹ.キューピッド」)。
 ハッピーエンド/アンハッピーエンド、幾通りもの物語を紡げそうな余白たっぷりの妖しい10葉。
 しばらくルドン展にきていたことを忘れて(笑)、この病んだ世界に没頭してしまう。

Munch 同じく愛や狂気、死をテーマにした作家としてノルウェーからムンク。
 対としての制作意図を持っていたという≪ヴァンパイア≫(モノクロ)と≪マドンナ≫(カラー)、そして全体を朱、瞳だけに緑を入れて、妖艶かつ狂気を思わせる女性の怖さを体現したような≪罪≫が来ている。
 観慣れた作品たちながら、相変わらずそのねっとりとした重たい空気と、痛々しくも底知れぬ怖さを持った女性像に息苦しくなりながら魅せられる。強迫観念的な女性観は、同時にそれを怖れながらも惹かれる男性の持つ昏い願望をも露呈する、エロスとタナトスの代表的な作品たち。

 ちょっと意外だな、と思ったのが、ラ・トゥール。彼の作品では、ちょっと(かなり)隠微な女性裸体像と、あでやかである意味では古典的な花が印象に強く、その交流は主に印象派のグループとだった記憶があったため。
 解説によるとルドンに転写法リトグラフを奨めた人物であるという。
 そして並んだ作品から分かったこと。ここでは、ワーグナー繋がりの作品として取り上げられているらしい…。

Latour 彼の≪幽霊船のフィナーレ≫(オペラ「さまよえるオランダ人」に着想;なんとなく映画『タイタニック』を想像させた船上で抱き合う男女の姿(笑))、≪パルジファルと花の娘たち≫(オペラ「パルジファル」から;聖杯を奪った魔法使いの誘惑である娘たちに誘われるパルジファルの姿はオルフェウスをも彷彿とさせる)は、ベルリオーズの交響曲「イタリアのハロルド」を視覚化した≪ハロルド:山岳にて≫とともに、大地の“気”が集まって、人や自然の形象を創っているような、ロマン主義的で劇的な雰囲気モリモリだ(笑)。

 その隣に、ルドンの≪パルジファル≫が展示されていることでワーグナーに触発された作品として、あるいは音楽を可視化した作品として並べられたことが理解できる。
 ルドンのそれは、激情をその線で表したラトゥールとは対照的に、とても静かな一枚。聖杯を得るために数々の試練を乗り越える無垢で一途なパルジファルの表情がとても印象的で、忘れられないお気に入りでもある。
 
Gauguin_1 そしてゴーギャン。印象派のような作風から、独自の象徴的な内的世界を求めた彼の表現と色彩の論理は、ポン=タヴェン派に、さらにはそこからナビ派へと大きな影響を与えた。
 ここではタヒチでの経験を活かした版画集『ノアノア』から、自らで印刷した自刷りと、友人ルイ・ロワによって刷られたものを並べて、その印象の違いを楽しめるようになっている。

 こちらはルイ・ロワ版の「ナヴェナヴェ・ファヌア(かぐわしき大地)」。ゴーギャンの自刷と比べると、全体的にインクの濃淡と黒と赤の色の置き方が整理されて、描かれているものが分かりやすくなりバランスがある。ただし並べて観ると、刷りのズレ、彫りも木目も見えなくらい濃い黒、サラマンダーの羽の一方にも置かれ、その場の空気全体にも薄くかかっている赤の入り方が、より混沌としたイメージを醸し出し、「かぐわしき大地」の圧倒的なたくましさと怪しさを持つゴーギャン自刷の方が原始的な勢いを持っているように感じる。

Gauguin_2 彼がタヒチに渡るときに壮行会を開いたという「火曜会」のホスト、マラルメを描いた版画も来ている。
 背後の闇に浮かび上がる鴉はマラルメが訳したポーの『大鴉』に、そして不自然にとんがった耳は彼の代表作『半獣神たちの午後』への言及とされるこの肖像画は、偏屈男ゴーギャンの素直な尊敬が感じられて好きな一枚。ちなみに彼が作成したエッチングは、これとあともう一点しか見つかっていないという、珍しいものらしい。

 そのまま流れは、ポン=タヴェン派からナビ派の作家たちに。
Bernard エミール・ベルナール≪ポンタヴェンの市場≫は、ゴーギャンと共に「総合主義」の試みを実践していた、「クロワゾニスム」の黒い輪郭線と、陰影のない平坦な色彩で、平面性の強い作風の典型と言える。
 市場に陳列された色とりどりのリボンが、画面中央で縦のリズムを作り、描かれた対象である人々を分断する。この地方の民族衣装である黒いドレスと白いベールの群れの中に、左側に立って商品を見つめる女性の赤毛と、リボンの下に並べられた果実(?)の鮮やかな球体が画面を引き締めている。
 女性たちの表情ものっぺりして感情をうかがわせず、背景を含めて大勢の人が描かれているのに、どこか非現実的な、時間を止めてしまった静寂に凝固する。その凝固が独特の詩情を生みだしている。いいなー。

Serusier_1 ナビ派の創立者とされるポール・セリジェは、その流派の中でも特に神秘的なもの、超自然的なものへの意識を強く感じさせる作品が多い。
 流派結成の宣言ともいえる≪タリスマン≫をはじめとして、今回観られた≪森の中の焚火≫も焚火の赤が、夜の森全体に反映し、その火を囲む人間は画面左下方に小さく、全員黒マントをはおった姿でうずくまっており、なんとなく不穏で幻想的な空気をたたえている。

Serusier_2 さらに≪消えゆく仏陀―オディロン・ルドンに捧ぐ≫は、文字通りルドンが亡くなった年に描かれた彼へのオマージュであり、ルドンも繰り返し描いた仏陀が彼自身を示唆し、水底に沈んでいる。水面から送られる光の泡と、ゆったりとたゆたう魚たち、砂の上にはトカゲ(サラマンダーらしい)が仏陀を守り、慰めている。静かな冥福を祈る(わかりやすい)作品。

 そしてもちろんドニ!
Denis 1点だけだが、≪なでしこを持つ若い女≫は、筆のタッチをそのままに少し粗めの点描画ともいえる描法、前景に人物像、背後には遠景の風景を配した、ある時期のドニの特徴的な作品。
 体を横にして口元に小さな花束を持ち、顔だけをこちらに向けたやや丸顔の女性は、印象的な目元と視線で観る者を惹きつける。全体をグリーンの濃淡で彩色された中、手元の花と背後に置かれたピンクが奥行きを感じさせる俯瞰の森の風景の中に散りばめられ、ブラウスと森を流れる川に配された水色~白とともにここちよい繰り返しを生み、彼女の金髪がひときわ輝くように瞳の色と呼応している。これも好きな一枚。

Maillol ここで珍しい作品に遭う。
 彫刻家として知られるマイヨールの油彩が一点、初期のゴーギャンの画風を思わせる、淡く明るい色彩の≪山羊飼いの娘≫。
 解説によると初めは画家を目指していたらしいマイヨールはシャヴァンヌやゴーギャンの影響を受けた作品を創造していたが、目を悪くして彫刻に転向したらしい。ナビ派との交流もあったようで、あまりマイヨールの(彫刻)作品に惹かれない私には(たぶん)初めての絵画作品との出逢いだった。静かな情感漂う一枚ではあるが、やっぱりこれもそれほど惹かれなかったものの…。

 最後にはヴュイヤールとの関わりが深かったというケル=グザヴィエ・ルセルの『風景版画集』から7点展示されている。
 あまり接したことのないアーティスト(ルセルの名は憶えがあるのだが)、カラーリトグラフの特徴を活かし、輪郭線のない、淡い色の転写で風景や形象を浮かび上がらせる。
 風景の中に白く残した余白にドレスの縦縞だけで女性の後ろ姿を造形したり、抽象画のように載せられた白や水色が、ニンフやキューピッド、森で戯れる女性を浮上させる。その手法が視覚に与える影響を楽しめる作品集だ。

 そもそもに象徴主義やナビ派が大好きでこの平面性に弱い私は、すでに「ルドン展」ということを忘れかけていた最終章(笑)。

 しかし、それぞれのアーティストとその作品は楽しめたものの、いまひとつ展示が唐突で関連性を捉えにくい感じが…。
 象徴主義それ自体がひとつの傾向としては捉えられないので、セレクトとしては確かに関連があるし、ルドンの幻想性や神秘性が後世の画家たちに与えた影響を観る、という意味ではズレてはいないのだが、展示がなんとなくぶつ切りで、あまりにあちこちに飛ぶ感が強いので、ルドンとの関連として微妙に意識しにくいコーナーになっているな、と。

 建物の構造とスペースの問題とも思えるが、セリジェの≪消えゆく仏陀―オディロン・ルドンに捧ぐ≫も、先に上げた特設ショップ後の「おまけ」の部屋にあり、せっかくのナビ派とルドンとの関係がその場で感じられないのは残念だ。

 一方、その割にこうした周辺画家の作品の所々に関連しそうなルドン作品が、ぽつり、ぽつりと配されるのだが、このキャプションに作家名がない…。もちろん並びの中で異なる画家の作品は分かるし、知っている作品であればそうと気づけるものの、これはちょっと乱暴だな、と。
 ルドン展だから名のないものはルドン、として処理したのだろうが、モノによっては(人によっては)判断に苦しむだろう。(と思ったら、下部に“追加”されていたらしい…気づかなかった;汗)

O_Redon_15 ルドンの黒も、色も、象徴主義の一部の作品も、それぞれに堪能できる数とクオリティ。
 それだけに今回は、展示空間とその配置構成が(デザインセンス含め;笑)ややひっかかるものとして残る。

 ま、国内に(しかもいち美術館に)これだけのルドンと象徴主義の作品があることは何より嬉しく、巨大なパステルの収蔵祝いとして目をつむるか。
スポンサーサイト

テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

プロフィール

chat_noir

Author:chat_noir
FC2ブログへようこそ!

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
02 | 2012/03 | 04
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
タイム
検索フォーム


リンク
アクセスランキング
参加しています。よろしかったら投票お願いします。。




人気ブログランキングへ

ブログランキング・にほんブログ村へ
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。