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じいちゃんの罵声が楽しく愛おしい秀作ミステリ ―『さよならドビュッシー 前奏曲~要介護探偵の事件簿』―

『さよならドビュッシー 前奏曲(プレリュード)~要介護探偵の事件簿』 中山 七里 (宝島社文庫)


 『さよならドビュッシー』『おやすみラフマニノフ』に連なる、連作短編集。
 タイトル通り、設定としては『さよならドビュッシー』の前の物語。かの作で主人公遥の祖父として、早々に火事で死亡する一代で財をなした香月玄太郎の、安楽椅子探偵ならぬ、車椅子探偵の活躍が描かれる。

 脳梗塞で下半身が不自由になり「要介護」の認定を受けた老人玄太郎だが、その頭脳と口の達者ぶりは健在、引退どころか現在も車椅子生活以外は矍鑠として、相変わらずの毀誉褒貶のワンマン社長ぶりを発揮している。
 この老人、とにかく権威やそこに追随する輩が大嫌い。その毒舌と強引さは、長年に築いてきた人間関係による脅しや強権発動も駆使して、周囲を有無を言わさず従えてしまう独裁ぶり。しかし、そこには彼の一本筋の通った理念が常にブレることなく横たわっているため、なぜか憎めない。

 元気すぎるおじいちゃん玄太郎が、ベテラン介護士のみち子さんとともに、数々の事件を解決していく痛快でハートフル、元気になれる楽しいミステリだ。

     彼の分譲した土地に建設中の家の中で死体が発見される。現場は完全な密室。
    人死にの出た分譲地では販売もままならぬ、と、動きの悪い警察に業を煮やした
    玄太郎は、自ら犯人探しに乗り出す。彼もその実力を認めていた建築家の死の真
    相は?――「要介護探偵の冒険」

     脳梗塞で手足も口も不自由になった玄太郎の、介護士みち子さんとの出会いと
    リハビリの日々。自由にならない身体に癇癪を起こしていた玄太郎だが、みち子
    さんの機転でとんでもない集中力と意志の力を発揮、そのリハビリ施設で彼が見
    出したものは?――「要介護探偵の生還」

     古くからこの土地に暮らしてきた老人ばかりを狙う連続通り魔事件が起こる。
    動かない警察を怒鳴りつけ、強引に小学校の運動会への参加をねじ込んだ玄太郎が、
    自らオーダーメイドし彩色した車椅子を疾駆させて暴いた犯人は?――「要介護探
    偵の快走(チェイス)」

     行きつけの銀行でなんと銀行強盗に遭い、みち子さんともども人質として拉致され
    てしまう玄太郎。かなりの知識と技術を持った4人の強盗犯に、銃を突き付けられな
    がらも毒舌を爆発させる玄太郎にみち子さんはハラハラ。さてこの攻防やいかに?
    ――「要介護探偵と四つの署名」

     長年のライバルであり、資金援助もしてきた政党の大物国会議員が毒殺された。
    何も摂取していないのに青酸カリにより死亡したこの古きよき敵のため、玄太郎は
    その解決を決意する。人を見る眼には絶対の自信を持つ彼が認めた新しい賃貸者、
    ピアニストの岬に協力を仰ぎ、犯人を追いつめていく先にあるものは?――「要介
    護探偵最後の挨拶」

 5編共に玄太郎の生涯をつづりながら、ひとひねりあるミステリとして仕上がっている。
 
 とにかくこの障害を持つおじいちゃんのキレ方とその罵声、それに右往左往する周囲の人間、あきらめ切っている家族の反応、そしてその性格を見切っているベテラン介護士みち子さんとの丁々発止のテンポよいやり取りが楽しい。

 事件を書斎で解決するのではなく、車椅子でどんどん(入ってはいけない)現場にも踏み込んでいくその原動力、言うことやることめちゃくちゃな老人の、怒りは常に強いものにまかれ、あるいは自身の弱さを逃げの言い訳にしているものに向かっていく。そこには足が不自由なことも、老人であることも、すべてをありのままに受け止め、かつそれらをハンディと思わない強靭な生き方が在る。
 みち子さんの介護士としての誇りも、決して対象を不幸な人として憐れむことなく、一個の人間として対しているから、このふたりがものすごくかっこいい。

 それぞれのエピソードは、3.11の震災をはじめとする現代の社会問題を取り上げ、人間の欲や弱さ、悪意や怯懦を浮き上がらせ、悲しく厳しい結末を現しながら、傲岸不遜な要介護探偵の強引さと底に流れるやさしさがほの温かい感傷を残す。
 各々の事件が、スパイスの効いた謎解きになっているのは、この玄太郎に託して語られる社会問題に対するそしてハンディのある人間に対する主張とスタンスが、大きな重たいテーマを私たちに突き付けるからだ。

 先4編はどちらかというと介護士みち子の視点から、最後の1篇は玄太郎の視点で進み、そして新たに得た岬という信頼できる人物に後を託すように『さよならドビュッシー』へとつながっていく造りは、各篇の配置とともにみごとな構成だ。

 先2作では、その音楽的叙述に引き込まれたが、ミステリとしては人物造形も含め、この作品が秀逸じゃないかと思う。
 すでに「最後の挨拶」でみごとに閉じた物語だけれど、玄太郎じいちゃんとみち子さん、できれば他のエピソードで再会したいほどに。

 先2作を読んでいなくても十二分に楽しめる。気持ちよく切なく、歯切れよくそれでいてなかなかに重厚、ぜひお奨めの一冊だ。


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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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