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短編に光るメタ・ミステリの知的遊戯 ―『メルカトルと美袋のための殺人/木製の王子』―

『メルカトルと美袋のための殺人』
『木製の王子』 麻耶 雄嵩 (講談社ノベルス)



 『鴉』でメルカトルは気になるね、と話したら、「メル(メルカトル)ものの一部だよ」と同僚が貸してくれてからずいぶんと経ってしまった…。
 読了はわりと早かったのだが、いまひとつ読後感がまとまらないまま、いい加減お返ししないと。
 いろいろと前後するがまずは拝借モノのお片付けから(汗)。

 あまりに超人的な推理力であっという間に真相を解明してしまう自らを称して、「長編には向かない探偵」とのたまうメルカトル鮎と、ミステリ作家であるワトソン役美袋(みなぎ)のダークでコミカルなやり取りが楽しめる短編集『メルカトルと美袋のための殺人』

 知人に招待された別荘で起こる殺人事件、女性は本当に自殺だったのか?あるいは刺殺された男はどうして香水をつけ化粧を施されていたのか?
 事件がなく、退屈をもてあましたメルが出した広告を見て老人がひとりやってくる。身辺警護を願う彼の命を狙っているのはだれか?
 書けない原稿に苦しみ人気のない旅館に逃げ込んだ美袋は、一足先に来ていたメルとともに奇妙な二人の女性の死体を発見する。それはここに伝わる悲劇の犠牲となった少女の幽霊が引き起こしたのか?
 正月早々メルに呼び立てられた美袋が読まされたのは、傲岸不遜さがそのままの彼のミステリ作品。果たして美袋はその真相を言い当てて、賭けに勝つことができるのか?
 目覚めたらどこかわからない山の中に置き去りにされていた美袋。遭難寸前に助けられた別荘でその持ち主が殺される。犯人として疑われる彼をメルの鮮やかな推理は救えるのか?
 招待を受けたシベリア鉄道の列車内で起こった殺人事件。旅客機の尾翼が落下して緊急停車した偶然を使用した犯行は招待客のうちの誰に可能だったのか?

 相変わらず、状況はそれほどに不自然ではないものの、メルの登場の仕方やその強引なまでのものごとの運び方、そして読者を煙にまくような、脱力させるようなエンディングは、麻耶氏ならでは、といったところ。

 メタ・ミステリといえばよいのだろうか、アンチ・ミステリというべきか。推理の論理性は崩されることはないのだが、真相とそこから導き出される結末が、みごとにいわゆる「ロジカルなミステリの解決」を裏切っていく。
 メルの書いたミステリなどは、彼の不遜さにことよせて完全にミステリのロジックそのものをパロディ化しているし、列車内殺人事件を描く「シベリア急行西へ」もクリスティの作品のパロディといえよう。

 それらが、自身が楽しみ納得するためならば、正義も踏み潰し犯罪さえも厭わないメルの言動や動機に興味のない冷酷さと、それに振り回されて良心に苦しみながらも流されて、友人であるメルに殺意すら持つ美袋の昏い感情とに彩られて、独特の陰鬱さと諧謔をまとっているところがおもしろい。

 もう一作『木製の王子』は長編。
 『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』の続編といえるもので、あの事件(すでに前作の記憶も怪しくなっているだが…;汗)後の烏有が瑠璃と婚約、無事出版社に就職ながらも、結婚という束縛への抵抗感(マリッジ・ブルーか??)と事件の後遺症に漠然とした不安の日々を送っているところから始まる。
 後輩として入社した安城の教育担当になった烏有は、比叡山の奥に不思議な館を構え、その閉ざされた生活と家系が何かと噂される白樫家の一族で、世界的に高名な画家宗尚のところへ取材に行き、その義理の娘の惨殺死体に遭遇する。首だけがピアノの鍵盤の上に置かれ、身体は屋敷に造られてた焼却炉で焼かれるという凄惨な犯行は、明らかに内部の者の仕業と考えられた。しかし関係者すべてに分単位でのアリバイが成立している。
 果たして犯人は誰なのか、なぜ死体を切断する必要があったのか、どうやってアリバイを作り上げたのか、一族の持つ近親婚の家系図と、証としてのシンボルマークを刻んだ指輪が明らかにする歪んだ思想の結末は…?

 そのシンボルマークは、3年前の事件を解決できなかった名探偵木更津の悔いの象徴でもあった。彼は雪辱を晴らすべく、調査に動き出していた。
 出生の秘密を抱え取材を理由に館に入った安城の過去が明らかになったとき、殺人事件は驚愕の事態を迎えることになる。

 雪に閉ざされた館モノ、精緻なアリバイ、一族の持つ常識からは外れた信仰、と、いわゆるミステリ要素が満載。
 しかし分単位で一覧表を掲出してまで検証される関係者のアリバイは、あまりに細かすぎて、短気な私は読み飛ばしてしまった…。

 この偏執的ともえるアリバイの羅列こそ、アンチ・ミステリとして敢えて意図したものと思われるが、延々この検証が続くのは正直つらい…。
 再度事件に巻き込まれる烏有の優柔不断さ(性格としては前作と何ら変わりないのだが)と、安城の悶々とした様子も、事件の暗さを演出する前にイライラさせられてしまうため、事件の衝撃になかなか入りきれない。
 また物覚えの悪さから一族の名前が覚えきれず、各シーンの人物の特定にいちいち巻頭の家系図を見なければならなかったのも(自分のせいながら)集中阻害に一役買って(一番最初に覚えた女性が早々殺害されてしまったので;汗)。

 こうした「入りにくさ」も、論理を超えたアリバイの突破も、陰惨な結末も、おそらく氏の目指すところだったのだと思うし、彼らしい破壊力を持っているのは感じるのだが、外側からは解消できない、そしてその介入も求めていない「信仰」に集約させてしまうのはやっぱり「反・解決」だなーと。

 結局氏のデビュー作である『メルカトル鮎最後の事件』は未読なので、いまひとつ彼がその特徴として持っているキャラクターの設定の意図と人間相関図があいまいなまま、しかも飛び飛びの2作のため、読み取れ切れていないのかも、という不安(?)も残るが、どうしてもその実験的な「アンチ・ミステリ」の企図の方が立って、ストーリーに入り込めないそのこと自体を楽しみ切れない。

 その意味では、短編集である『メルカトルと美袋のための殺人』の方が、それぞれにバリエーションを以てその部分(メタ/アンチ・ミステリ的実験)を小気味よく味わわせてくれたか。

 メルが、じゃなくって、実は麻耶氏が「長編には向かない作家」…?
 でもメルのキャラクター、その非論理的な在り方とともに、決して嫌いではない(笑)。

 ちなみにどちらも現在は文庫で読めるようだ。


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