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技巧に過ぎるか…共同体が生む惨劇ミステリ? -『鴉』-

『鴉』 麻耶 雄嵩 (角川文庫)


 『蛍』で懐かしく楽しんだ本格に気をよくして(笑)引き続き同僚に借りた。
 あくまでも”メルカトル”なる人物が出てくるシリーズの”一部”との注つきで。

 地図にない山間部の集落。周りを山に隔たれ、時間も空間も現代の日本から遠い過去に取り残されたような閉ざされた村に、弟 襾鈴(アベル)の死の謎を追って入り込んだ珂允(カイン)。
 鴉の大群が人を襲い、大鏡様という”現人神”によって支配されるそこは、それまで珂允がいた日本とは思えない、異郷として彼の前に立ちはだかる。
 ”外人”(!)と呼ばれ、村中から異物として見られる中、大鏡さまの威光の元では起こるはずのない殺人事件が発生する。
 当然のように珂允に疑いがかかり、彼は襾鈴の死の原因を探すだけでなくその容疑を晴らすためにも、村で起きた殺人事件を解決しなければならなくなった。
 殺人者の腕には痣ができる――。ありえない言い伝えを信じる村人たち、繰り返し鴉の襲撃に遭い怪我とともにその閉鎖性にままならない己の行動規制に苛立つ珂允、そこに追い打ちをかけるように次々と起こる殺人事件に、村の土地使用の利権争いの対立も顕在化、そしてとうとう惨劇へと連鎖していく…。
 大鏡の正体とは何なのか、珂允の愛憎半ばする弟 襾鈴の死因とは?…。

 長編小説ではあるのだが、読んでいる途中で”長いな…”と思った久しぶりの作品だった。

 閉ざされた”ムラ”の閉鎖性や頑なな空気、そしてその中で保持されていく共同体存続のための理不尽で残酷なルール、外部からの浸食と内部からの脱出を忌避する排他性、そこに属するものに悪しきものはないという蒙昧な偽善と内部に巣くう救いのない憎しみや対立、怨み。
 いわゆる境界と排除の民俗、そして集団の存続のための「神」という存在による監視と抑制の”システム”が、ひたすらに描写され、ほぼ全編となっている。
 この世界の構築は、敢えて非現実的な空間として設定された村であることも寄与して、その不穏で淫靡な雰囲気がよく出ている。

 しかし珂允の謎ときの過程は(その排他性を考慮しても)あまりにも遅々として進まず、ストーリーとしては冗長な感が否めなかった。
 さらに、民俗学や村落習俗、そして王権の聖性と俗性(賢愚の両義性)などをかじった人間にはあまりにも借りてくるこうした要素が”ベタ”すぎて、ミステリにならない…。

 兄弟の名前を珂允と襾鈴にした時点ですでにミステリの結末を明かしているので、敢えて作者が意図した造りなのだと思うが、としてもちょっと技巧に走り過ぎかな、と。
 この集落を村として成立させている先天的な要素も、文章の中から割と早くに見えてきてしまう(これも敢えてなのか?)。

 最後の(氏のお得意であろう)”どんでん返し”も、別に現実的な辻褄だけを求めはしないが、「ミステリ」と銘打つにはルール違反じゃないか…?と私には感じられた。
 なぜ突然鴉が集団で人を襲うようになったのかも、タイトルとなっている割にはいまひとつちょっとした恐怖作りにしか使用されておらず、これは残念なところ。

 とはいえ、村落に生きる人々の、思考を停止し大鏡にすべてを委ねることで、ムラの持つ矛盾や無理に目をそらしている現状、それらを純粋な視線で見ながら疑問を持つ子どもたちの心情と好奇心、システムの側に立つ側近や村長の矜持や思惑、そして、そうしたシステムの定義と抑圧によって許されるあるいは暴発する差別や虐殺などの恐怖と傷ましさは、その”ゆるゆる”続く文章から、じわじわと滲みだしてきて、”嫌な感じ”で読み手を侵していく。
 そこが、長いな…と思いながらも、やめられない魅力となっている。

 ジャンルを限らず、ひとつの“読みもの”として、「鴉」の文字が持つ不吉さや色のイメージに浸るとすれば、楽しめる一冊だ。

 ところで”メルカトル”。この作品ではその顕現自在な(アリスのうさぎのような)出没はやや不自然ながら、キャラクターとしてはどうやら好み(笑)。デビュー作『メルカトル最後の事件』は読まないと。


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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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ばんわー^^

おぉ!僕もこの『鴉』はノベルス版で積んでおりますよ!
ミステリとしてはどうということもなさそうな作品ですね^^。
でも読み物として楽しめそうなので、それでもいいかな(笑)

それにしても寡作な麻耶さんの今年の二作はすごく評判が
いいですよね!まだ触れてない作家さんのので楽しみ~^^

Re: ばんわー^^

チルネコ さま

どもー。
そしてすみません…。
結構期待度が高かったせいか、ダメ出しの多い読書感となってしまいました…。
でも、彼の作品の持つ”暗さ”と”救いのなさ”は(おそらく)健在なので、
それは楽しめると思います。
解決へのカタルシスのページの少なさ(!)に唖然とできるところも(笑)。
解説で笠井潔氏(彼の矢吹シリーズは大好きな作品!)が述べているように、
新たな”本格”への挑戦的な作品であることはとても伝わってきます。
引き続き作品は追いかけてみようと思ってます。
(寡作でホッ。積読本が多すぎて(苦))
メルカトルはそのスノッブさが気になるし(笑)。

しかしミステリの所感は難しいですね…。
つい語りすぎるきらいがあるので、ネタばれを抑制するのが大変だな、と(汗)。

チルネコさんのブログ記事で、いま三津田信三氏に興味深々です(笑)。
ちょっと自宅の山が片付いたら、手を出そうと思っています!

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