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ちょっとブレイク・10 衝撃の“肩すかし”に唖然 -『夏と冬の奏鳴曲』-

『夏と冬の奏鳴曲(ソナタ)』 麻耶 雄嵩 (講談社文庫)

 
 先の『蛍』『鴉』でそれなりに楽しめた麻耶氏の作品。同じ同僚がいちばん好きな作品といって貸してくれた。(最近まで書庫で見つからなかったらしい…笑)
 柄刀氏の本格で気をよくしていたところ、このラインで続いているが、まあ本との出会いは縁なので。

 入試に失敗した医大生烏有(うゆう)が、人生の目標を失い無為に過ごしている中で知り合った女子高生の紹介で始めた小さな出版社でのアルバイト。
 医者を目指したのは、子どもの時に車に轢かれそうになった自分を救い、代わりに命を失った優秀で評判のよい青年への償いとその身代わりとして生きていくことを自分に課していたためだった。自分の人生はその時点で終わっているはずで、その青年の代理で生きてきたつもりだったが、能力の差異に打ちのめされ、(そもそもに)不可能な生き方に限界を見ながらも、では自分の人生は何か問うても何もない。そんな蜃気楼のような、実感の伴わない毎日でも、いつしか順社員の肩書を得て担当させられたのが、20年前にひとりのアイドルに心酔し、彼女と孤島での共同生活をした男女5人が、その島をふたたび集うという、その同行取材だった。

 当時学生だった彼らの理想の生活は、アイドルであった間宮和音の死と、後を追うように死んだ武藤の死によって終止符を打ったらしい。ただ、その島を買い取って「和音島」とした水鏡だけが、そのまま社会から離れ、この20年間この島で生活をしているという。
 やがて社会に戻り、それぞれに年齢に合った地位についている男女4人が、20年という時の隔たりを経て行う同窓会とは、どんな意味を持っているのか、そして当時まぼろしの映画「夏と冬の奏鳴曲」という映画を自主製作し、その後この孤島で暮らした彼らの、一年で崩壊した「楽園」にいったい何があったのか…そんな疑問は浮かびつつも、他人との関わりを極力避けて生きてきた烏有にとっては、この集まりを取材することの意味も見いだせないまま、見たこともない和音に共感できるはずもなく、あくまでも取材記者としてのニュートラルなスタンスで1週間を過ごそうとするが、本島から遠く日本海を隔てたこの密室ともいえる孤島で殺人事件が起こる。
 首のない死体が、雪の降った庭に足跡も残さず、庭の先にあるテラスに忽然と現われた…。

 今の季節は夏。
 真夏に降る雪、島を狙いうったように起こる地震、2日目の夜に消えた使用人、切断された電話線ケーブル、暴かれた遺体がそもそもない墓、奇妙に歪んだ館の構造、部屋に飾られたキュビスム風の絵画、何かを隠しているような同窓メンバーの言動、それらがすべて今現在も「和音」に繋がっていく…。

 彼らにとって「和音」とは何だったのか、そして20年前の彼女と武藤のその死にはどんな原因がひそんでいるのか、館に飾られた17歳とは思えないほど妖艶に描かれた「和音」の姿が、この渡航に強引についてきた不登校高校生桐璃(とうり)にそっくりであることが明らかになった時、そしてその絵画が何者かによって切り刻まれた時、おてんばでわがままな桐璃のペースに巻き込まれながらも、烏有は彼女を守るために事件に巻き込まれていく。
 「桐璃を守る」――深く意識しないままに、いつしかそれが自身の人生を改めてやり直すきっかけとして、彼の自我を目覚めさせていくが…。

 あらゆる通信手段が遮断された孤島で、外に開かれながらも物理的に密室となる殺人、行方不明になる取材対象、追い詰められていく閉じ込められた人々、現在の事件に深く関わっている過去の事件、と、いわゆる本格要素をこれでもか、と散りばめて、そこに烏有のトラウマと現在の閉塞感を関わらせ、わざとらしいミス・リードの伏線も、会話やその口調に含まれる示唆も相変わらず、ベタベタな進行(笑)。
 その「ベタ」さ加減を、ややストーリーとしては甘いな、烏有の逡巡もくどいか…などど(偉そうに)楽しんでいたら、やられた…。

 麻耶氏なので、ダダでは転ばないだろうと思っていたが、思いっきり「ハズ」される。
 確かに殺人事件の謎は(ある程度)解かれるし、烏有の膜が張ったような仮初めの自我も崩壊して自身を取り戻す。
 しかし、密室の顛末は「そりゃないんじゃないの?」だし、ラストに至っては「はぁ…?」と思わず声に出してしまった。

 もうひとつの謎、20年前の「理想郷」の目的、崩壊の真相には、キュビスムの理論を延々と展開、この理論そのものは、館の構造と合わせてなかなか読みごたえがある(絵画論として興味のある世界だし)が、そもそもなぜ「キュビスム」を援用しなければならなかったのか、70年代の学生運動の空疎化、形骸化にもほのかにつなげられているものの、いまひとつ必然性の説得に乏しく、筆者のひとりよがりな思い入れが先走っているように読めてしまい、強引な印象がぬぐえない。

 プロローグの印象的な情景が、結局作品内で活かされていない(烏有のレゾンデートルに関わる部分なのにつまらない…)。  
 そしてエピローグ。ちょっとお気に入りになりそうだった“メルカトル”が最後に出てくるが、この登場に全く意味が感じられない。お約束でひとつの驚愕が用意されるのだけれど、個人的にはない方が作品としてのまとまりはよかったとさえ。

 作品紹介の「メルカトル鮎の一言がすべてを解決する」は、間違っていないか…?自分の読解力がないせいかと二晩思い返して悩んだが、やっぱり解決していない、と思う…。

 発表当時から賛否両論だったとのこと、確かに同僚はいちばん好きだというし(最後の部分はやはり分からないままに、しかし(素直に?)受け入れているらしい)、この「ハズ」し方を楽しめばよいのかも知れない。
 ただ、ミステリとして読んだ私としては、それまでの「ベタ」さを楽しんだがゆえに、その関連性があまりにも放置されたままに、意味不明などんでんがえしは、ちょっと許容範囲を超えていたか(決して作品がまま纏うことのある解明不可能性を否定する者ではないのだが)。
 
 合わせて3作に接し、文章自体のリズム、その語の使い方(やや硬い漢字が多いことも含め)と持ってくるテーマ(設定)、終焉の救いのなさ(笑)は好みのものが多い。
 しかし、その関連のさせ方が甘い、というか浅いので、深みのないままに、せっかくの面白そうな要素を表面でもてあそんでいるような不満が残る。知的な文章ゆえになおさら。(描写のせいか?わざとそうしているのか?単に私の読み込みが浅いのか…?)
 「和音」に彩られた世界が魅力的にも幻惑的にも思えなかったのが最大のネックか。これだけの大著に引き延ばす意味があったのか…?その割には展開が粗すぎる、という印象は拭えなかった。残念…。

 「アンチ・ミステリ」として、そうしたものを敢えて軽やかに扱い、転覆させていくのならばそれもよい。
 本格がひとつの限界に来て、試みがなされていることも、ひとつの打開・挑戦としては応援したいし、楽しみな展開でもある。(あまり成功した例に出会っていないし、結果キャラクターの“萌え”要素で、すっかりラノベやヤングアダルトにシフトしていったものが多いように思うけれど)

 しかし、メビウスの輪の捻じれの部分を最後の1cmでひっくり返し無理やり糊でくっつけたかのような、あるいは積んだ積木の核を的確に打ち抜くのではなく、ところかまわず爆弾でふっとばすかのような「オチ」は、スマートではない。
 (すでに現代的な感覚についていけていないだけなのか…?)

 その意味では、既読の中では、『蛍』の「オチ」がいちばん好みではあったか。
 
 まあここまで“肩すかし”と“???”を受けたことで、十分に楽しんだといえるのかもしれない…が。

 ちなみに貸してくれた同僚は「ダメだったか…」と苦笑い。
 その人間を以ってしても、最後のメルカトルのエピローグは蛇足、と言わしめる、それはそれですごいのかも(笑)。


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ジャンル : 小説・文学

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