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イライラ全開(笑)。「おやすみ」できず。 ―『豆腐小僧双六道中おやすみ』―

『豆腐小僧双六道中おやすみ本朝妖怪盛衰録』 京極 夏彦 (角川書店)

 
 イライラする。
 文章は軽やか。美しいほどにリズミカルであるのに、イライラする。
 表現はコミカル。たとえや皮肉も含んで、思わずニヤリとさせられるのに、イライラする。
 
 講談のように、漫才のように、つるつると読み進んでいるはずなのに、終わらない…進まない…あーイライラするっ!

 ということで、すっかり読書のペースを乱されて、ここまで“イラッ”としながらなんとか読了。
 そんな不健全(?)な読書なら止めてしまえばよいものを、それが分かっていてもつい購入してしまった『豆腐小僧』。そしてしっかり読んでしまう『豆腐小僧』。
 一作目ですでにその苛立ちを十分に経験していたはずなのに、その際わざわざ豆本まで申し込んで入手していたこともあって、(持たなくてよい)コレクター性(さが)に負けた…。

 いやしかし、実は、ある意味この「イライラ」がこの作品の魅力なのか…?(認めたくないけど)
 ここまでクドくて、おバカで、おフザケな作品、そして究極に苛つかせる作品、京極氏だからこそ生み出せる世界だ。それが分かるからこそ、イライラする自分になお腹が立つ(くーっ!)。

 妖怪世界の名門の血筋から生まれたはずの豆腐小僧。しかしその落ちこぼれぶりは、見た目も間抜け、おつむも軽い、江戸末期の戯作本や黄表紙に載る姿はまさに“キャラクター”だ。その豆腐小僧、生意気にも一人(妖?)前の妖怪になるべく武者修業に出る。着物に描かれている滑稽達磨と共に。
 達磨も知識豊かな高僧として人々の信仰を広く集めていたものの、この時代すでに子供向けのコミカルな姿が主に想起されるようになっていく。

 そう、彼ら妖怪は、「実在しないもの」。彼らが現われるのは、あくまでもこの世に存在する人間がその心に描くことによって、想像することが前提の「概念」である。「概念」である妖怪に自身の意思や思考はない。
 それなのに、なぜか豆腐小僧はその場に想起する(感得する)人間がいないのに、勝手に姿を現し、あまつさえ、(その足りない頭で)自身で思考し、行動を決断することができる…。

 前作『ふりだし』では、自身の存在理由を求め、豆腐を持たない自分は消えてしまうのではないかという“怯え”を抱えながら、幕末に蠢く人間たちの仄暗い情念から沸き起こった妖怪たちとのさまざまな交流を経ていくドタバタに、近代に消えゆく妖怪の悲哀を、滑稽達磨とのボケとツッコミ、噛み合わない会話に描いていた…はず。(実はどんな顛末だったかよく覚えていない…汗)そのやり取りの繰り返しは、コミカルを通り越して思いっきりイライラした記憶だけが残った。

 今作『おやすみ』は、『ふりだし』の事件の余韻を引きずりつつ、修業と称して怪しい山伏(人間)についていく小僧と達磨から始まる。山梨の山の中で出会った村人やら、騙りの女“おりん”、信玄の隠し金を狙う強欲商人やら、悪坊主、うだつの上がらぬ直参旗本やらの思惑渦巻くところに生じた(感得された)妖怪たちに加え、「妖怪総狸化計画」を目論む八百狸の野望も加わり、愚かな人間の愚かな破綻にリンクして、妖怪世界をも巻き込んだ大騒動が繰り広げられる。
 達磨の哲学的な講釈に、相変わらずアホな茶々を、そして時には無垢ゆえの鋭いツッコミをいれながら、果たして豆腐小僧はそこで何を会得するのか――。

 「概念」である妖怪の講釈(主に達磨の)、「いる/いない」「存在/非存在」の概念の展開、そして妖怪や守護神の来歴の披露は、さすが京極氏、お気に入りの『京極堂』シリーズの“憑き物落とし”と同じロジックであり、豊富な民俗学的知識満載で、嬉しくなるところだ。
 さらにその語りの滑らかさは前作を凌駕し、本当に気持ちよいくらいにリズム抜群で、洒落も皮肉も効いている。

 それなのに。
 繰り返される概念の非在の注釈、物語をより混乱させていく(人間も妖怪も)「おバカ」の「おバカ」加減さにうんざりしてくる。ここまでむかっ腹の立つキャラクターを描ける氏の筆力に感心しながら、あまりに進まぬ物語に、イライラっと(苦)。

 結局終わりはドタバタのうちに消滅…悪事はばれて、悪人は捕まる…のだが、大団円には程遠く、混乱のうちに霧散する。
 そして霧散すれば、「概念」の妖怪は消え失せる…。ただし豆腐小僧と達磨を除いて…。
 この未消化な終わりも、理屈からすればその通りなんだが、ここまでイライラした気分は霧散してくれない…。
 豆腐小僧の存在の“仕方”の異様さに、他の妖怪も認識を持ち、その認識を持ったこと自体で、自らも人間の“感得”にとどまらない“自我”を意識し出す空気が流れたところでプッツリ。これまた欲求不満。 

 あーっ!もう!
 分かっていたけれど、もやもやした未解決感と〝やられた″感の腹立たしさがおさまらず。勝手に「おやすみ」するなー!!

 己の短気とこの「笑い」を受け止められない狭量さを自覚した上で、敢えていえばやや冗長かな、と。もう少し妖怪概念の右往左往をシンプルにして、彼ら妖怪の自我に焦点があってもよかったと思う。
 科学や証明が最優先され、「想い」や「恐れ」という人々の感情のあわいが否定されていく江戸末期から近代の思想の中で、活き活きと存在していた妖怪たちが姿を消していくことへの哀惜と淋しさは、一作目の方がよく出ていた。
 コミカルな豆腐小僧への愛着(小理屈達磨にも;笑)が強くなったことは感じるものの、ややお巫山戯に過ぎるか。

 しかしこれが映画化されたって…。
 どうやら現代によみがえった豆腐小僧の騒動らしいが、この話の楽しさは大人向けな気がするのだが…。
 少なくともアニメのキャラクターデザインは、原作のイメージを壊すものでしかないと個人的には思っている。

 デザインといえば、装丁は相変わらず凝っている。登場する妖怪を京極氏その人がデザインした画が巻末に載っているもの楽しい趣向だ。
 ただただ、こんなにあっさりした一冊にどんだけかかったのかを考えると落ち込む私ではあるが。


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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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ばんわー^^

おぉー奇遇ですね~。実は僕も今京極さんの読んでるんです。まぁじょろうぐもなので、古いっちゃあ古い作品ですが^^;京極作品はスルーしちゃうものもあるんですが、これがそうでした(苦笑)でも映画化されるということでよく目にするようになって気になってましたが、読んでてイライラしますか(笑)『嫌な小説』は全編厭厭厭だったので、京極さんらしいといえば本書もそうなのかも知れませんね^^

Re: 奇偶つづき?^^

こんばんは。コメントありがとうざいます!

「じょろうぐも」あたりは、(『京極堂』ものだし)最も好きなシリーズで、ほとんど発売日に入手、夜明けまでに読破していました…(おかげで翌日は全くの役立たず;笑)いまひとつシリーズ通しての相関関係は記憶に怪しいのですが(汗)。
いいなー。時間があればその世界に戻りたいです(泣)。

 しかし、本当に小説内の登場人物だけでなく読者をここまでイラつかせられるものを書けるなーとその才能には感嘆です。とにかくクドい。おバカ。
 本気で「キー」っとなりながら読んでました(笑)。
 遊び心も満載なのですけどね(そこについていけない無粋なのかも知れませんが)。文章もクドいようですが(!)とにかくリズムよく文句なく見事です。
 
 被虐的な趣味はありません(はず…)が、まあその意味では一読の価値はある…かも…です。よかったら感想お聞かせください。
『どすこい』だけはどうやっても私には救えませんが(笑)
 

イライラ全開でしたか・・・

chat_noir さん こんばんは。
実は、次「ふりだし」を読もうと決めていたのです。
図書館で、「おやすみ」を借りるつもりが
「ふりだし」の続編とわかったので
一から読まないとと考えてたんですが・・・
いつも落ち着いておられる chat_noirさんが、
「キィー」っとなるのかぁ・・・と、ちょっと躊躇。
でも、のほほ~んとしてる私には、案外シックリくるかもしれません。

今、冲方丁さんの『天地明察』を読んでます。
(すごく面白い!私好みです。) 
この後に、豆腐小僧に会いに行きたいと思ってます。
果たして、「おやすみ」まで辿り着けるでしょうか??

Re: イライラ全開でしたか・・・

あんごま きなこさま

こんばんは!コメントをありがとうございます!

いやーお恥ずかしい限りです…。
とにかく短気な性格があぶり出されてしまいました…。
京極氏の絶妙なところなんですよね、悔しいけれど。

妖怪の非存在性と発生のからくりについては、文句なくわくわくする
「理屈」の開陳ながら、とにかく「くどい」。
話の筋が寄り道、たたら、廻り道、でいつの間にかの大騒動。
ドタバタ喜劇として楽しむ余裕のある方には、そしてこの「おバカ」な
豆腐小僧を“かわいい"と思える方には、とても楽しい妖怪物語かと。

文章は流れるようだし、蘊蓄も一流。
消えゆく妖怪への一抹の淋しさを、彼らしいギャグに託した、
異界に住まう異形たちへの愛に満ちた作品だと思います。
ので、私の偏見に満ちた読後感は無視してくださいまし。

季節の小さな移り変わりに感受性豊かに目を注がれるあんごま きなこさんでしたら、
ほのぼのと軽やかに楽しまれるかと…。

ただ、「おバカ」キャラが苦手(愚かとはまたちょっと違い…)な私には、
どうにもその「おふざけ」が相性悪いみたいです(笑)。
と、言いながら繰り返し本気で向かって「キィー」っとなっているのですから、
懲りないというか、私自身が「おバカ」ですね…(苦)。

まあ、暗くて重い「京極堂シリーズ」や哀しくて粋な「巷説シリーズ」が
大好きすぎて他に移れない、という頑なさも災いしているのでしょう。

『天地明察』!
やはり面白いですか…。
彼のSF作品と異なり読後爽やかだよ、と言われて、気になりつつも未読(笑)ですが、
そこまで言われるのでしたら、やっぱり今年中にはなんとかしようっと。

ぜひぜひ、私が見つけられなかった豆腐小僧の魅力を教えてくださいね!

ふりだし・・・

やっと読み終えました。
以前にも書き込みしたのですが、
読み終えてフ~とため息と共に疲れがどっと・・・
chat_noir さんがイライラ&キィーとなるのが良くわかりました!
思うに、いろいろ講釈が多すぎる気がしたのですが、どうですか?
でも、面白かったのも事実です。
妖怪の世界をここまで掘り下げて解説していただいて
何も知らずにいる者には、有り難いと思わなくてはいけないのかも・・
ですが・・・
豆腐小僧が江戸を出て、やっとスムーズに動き出したような気がしました。
『おやすみ』は、時間的にも体力的(?)にも余裕がある時でないと
読み終えることができないのではと思ってます。
その前に、京極さんの他の本に目がいきそうです。

「ふりだし」があるってことは、「あがり」があるってことですよね!?
ということは、まだまだ続くってことでしょうか??

Re: ふりだし・・・

あんごま きなこ さま

読了のご連絡と感想をありがとうございます!

> 読み終えてフ~とため息と共に疲れがどっと・・・

確かに。「疲れ」ますよね…。体力消耗しますよね…(読書なのに)。
よかった。私が勝手にイラついて疲れただけじゃなくて(笑)。

講釈が多い上に、豆腐小僧、頭悪いんだもの。
話が進まないったら!(思いだしてまたキーっとなっている;苦笑)

でも悔しいことにその講釈が面白いんですよね。
概念の在り方が。
ここが京極氏の憎たらしいところです。

> 「ふりだし」があるってことは、「あがり」があるってことですよね!?

ひえ~。ご指摘に改めて「うんざり」(笑)
確かに文庫下記下ろしでもいつくかシリーズが出ているようです。
さすがに装丁の面白さを重視していたので、そちらには手を出していませんが。

もう「おやすみ」で寝てもらって、異なる作品に注力していただきたいな、と。
(「京極堂」の方はもう出ないのか…?)
作者がとても楽しそうなので、またひょっこり出そうですね…。
三歩進んで二歩下がる、時には一回休み、
あぁ、まるで“あがり”のない江戸の双六みたい…。

また「体力」のあるときに、チャレンジしてみてください、「おやすみ」(笑)。
この面白さと倦怠感(?!)を共有できて嬉しかったです!!

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