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黒と白の追求。光と闇の魔術にのまれる ~『レンブラント展』~

『レンブラント 光の探求/闇の誘惑』 (東京国立西洋美術館)

rembrandtチラシ_1
 やや前になるが、この週末で終了らしいので。
 上野に来たのだから、と『写楽』展から一休みして、レンブラントへ。
 西洋と東洋の大きな表現の違いはありながらも、共に版画作品の展覧会を“はしご”はちょっとヘビーだった…(苦笑)。

 しかし、独立行政法人制度が導入されてからの西洋美術館は、どうも渋い展覧会が多い…。非常に丁寧で緻密な企画なのだが、なんとも玄人好みというか専門的というか…。(版画は好きなので嬉しいけれど、なかなか内容が難しい…)
 
 レンブラントといえば、生涯にわたり描き続けた大量の自画像と、最初の妻サスキアをモデルにした数々の神話画や寓意画、そしてオランダ絵画界の最高峰としての王侯貴族のような隆盛と、サスキアの死から晩年の息子の死と破産という、興亡の激しい生涯で知られる。
 その画量は、肖像画の内面を浮かび上がらせる描写力、衣装や装飾品の質感や輝きをみごとに再現する筆力、群像の配置に発揮される構成力、陰影によるドラマティックな表現力、いずれをとっても超一流の天才だ。
 そしてその腕は、黒と白の濃淡で表される版画により凄さを発揮する。

 今回の企画はこの「明暗の巨匠」といわれた彼の版画作品を中心に、その魔術の魅力をたっぷりと味わえる造りになっている。中には東インド会社の貿易によってもたらされたという、当時から高価だった和紙を使った版画のステート違いも並んで展示され、その紙質や微妙なアイボリーの色合いを彼がいかに気に入って活用したか、という、日本人にとってはなかなか嬉しい作品の展示もある。(この時代に早くも和紙を活用していたことには驚きではあったが)

 全体は、大きく3つのセクションに分けられている。
 レンブラントに先駆ける版画家の作品から始まり、その陰影の違いを聖書に基づいた情景や自画像を含む得意の肖像画でこれでもかと魅せる第1セクション「黒い版画:レンブラントと黒の諧調表現」、和紙を含めた、支持体である紙の特質を活かしてのステート違いを比較できる第2セクション「淡い色の紙:レンブラントの和紙刷り版画」、そこでインターバル(の割にはゴージャスだけれど;笑)として油彩作品の部屋を経て、より光と闇を追求したことを感じさせる彼独特の作品で締めくくる第3セクション「とても変わった技法:レンブラントのキアロスクーロ」となっている。

 会場全体を通じ、油彩のそれを除いて作品には色彩はなく、薄暗い(保存上のため)ライティングの中の黒と白だけなのに、豊穣な空気に包まれる。
 それは、光と影の表現が織りなす、豪華な階層が生みだす陰影の美しさだ。
 当然そこには、レンブラントの比類なきみごとな写実力が、対象を描き切っているのだが。

 特に闇の中に浮かぶ対象のシルエットは、そこに浮かび上げるための小さな光源の存在感を通り越して、「闇の中に浮かぶ影」として結実している。
 それはもちろん光の探究なしにはあり得ないのだが、この“闇”をこそ自在に支配し、そこに惹かれていた彼の姿を見せられたような気がした。それゆえに、キリストの神秘を表象する「聖なる光」がより輝きを増す。“レンブラントのキアロスクーロ(明暗法)”の誕生を、この“闇の誘惑”に強く感じたのは、うがちすぎか。


 以下、特に印象に強かった作品を、構成に沿っていくつか。
 そういえば、セクション副題には、すべて、「レンブラントの~」をつけた、企画者の細やかなこだわりもなかなか。

 第1セクション 黒い版画:レンブラントの黒の諧調表現

 この展覧会の中で最も感嘆した一枚≪蝋燭の明かりのもとで机に向かう書生≫。
 画面はほとんど黒。その中で壁に据え付けられた一本の蝋燭だけが光源の中、本を開いてこちらに強い視線を向ける男の姿がぼんやりと浮かび上がる。気をつけて観ないとその表情も額に手を当てたポーズも闇の中に沈んでいってしまう。
 その沈鬱ともいえる一枚に現われたさまざまな黒が、色彩ではない“色”として使い分けられているのに立ちすくんだ。

 ≪貝殻≫は、自然が造形する幾何学の美を、質感共に緻密に描きとった静物画。ややぎこちなさをも感じる“形”ながら、置かれている空間さえも感じさせる背景のやや粗めの黒と、貝殻に刻まれた模様を描いたくっきりした黒と、そこにあたる光が見せる艶が、不思議なリズムで存在感を持つ。

rembrandt_1 そして≪3本の木≫。管見ながらレンブラントの風景版画にはあまりお目にかかったことがない。
 ありがちな遠景を含む引きの視線の作品なのに、ちょうど雨雲が去り、薄い雲間からの陽が木々を照らし出した瞬間のような、湿気と帯びた空気と、仄かな光に葉を光らせた3本の木とそれが作る影とが独特の静けさと趣を持つ。同時に、去りゆく雲はまるでいまから動いていきそうな勢いをが美しい対比と緊張感を孕む。

 第2セクション 淡い色の紙:レンブラントの和紙刷り版画

 紙の質や彫りの過程でステート違い2~3枚が並べられている。残念なのは、この展示の間隔が離れすぎなこと。せっかく比較できるのに、こんなに離れているとそれが大変。そんなに視覚記憶が優れている人ばかりではないだろうに、何度も行きつ戻りつしなければならないのは不親切だ。せめてキャプションを左右に分け、その中央に作品を並べてほしかったな、と。

rembrandt_2 ≪ヤン・シックス≫。窓辺に立ち、書類を読む男の姿と、室内の陰影の対比がくっきりした一枚。和紙に印刷されたものはややその陰影が柔らかくなっており、全体としての黒の濃淡のバランスがよいかな、と。ただし、部屋の内部の風景は、西洋紙のものの方がはっきりするか。どちらがよい、ということではなく、作品にどんな効果をもたらしているかを観られるのが貴重だ。(だからこそやはりもう少し近づけてほしかった…)

rembrandt_4 ≪病人たちを癒すキリスト≫。岩に囲まれた洞窟のような場所に集まっている病んだ群衆。その真中に立ち手をかざすことで人々を癒すキリストの姿が、高い岩の上から差し込む光と、キリストのニンブスの光が背後の岩場の闇と対象をなす。ステート違いでは、手前の犬の扱いが変わっていたり、その明暗の効果はもちろん、構図の改編の過程も観られる。
 キリストを照らす光の聖性がみごとに表現される。

rembrandt_3
 聖書の風景でもう一点≪イタリア風景の中の聖ヒエロニムス≫。
 不思議な構図。思索しているというよりは、イタリアの晴天にくつろいでいるような聖ヒエロニムス。そしてそのアトリビュートとして描かれるライオンは、豊かなたて髪を見せながら背中を向けている。そこから視線は遠景のイタリアを感じさせる建築物へと導かれる。
 光の中に描かれる、木の幹、建築物、ライオンの毛の黒が、各々に質感の違いを持っていることに改めて感嘆。

 ≪書斎の学者(ファウスト)≫がこのコーナーでは最も記憶に残る。
 ドイツの錬金術師と言われたドクターを描いた作品。その知識を祝福するかのような聖蹟が現われた瞬間を描く。高い窓から葉いるわずかな光を背に光り輝く聖蹟、ざっくりと描かれた前景の地球儀(?)や作業台、背景の闇に沈む家具やその上に置かれた髑髏、そこにキリストの名を冠した光を見上げるその人ファウストが配される。それは驚きだったのか、希求していた結果の到来だったのか。
 それぞれに明暗の度合いが異なり、微妙にこの習慣の空気が異なって見られるのが興味深かった。

 インターバル 油彩作品

rembrandt_5 やはり≪アトリエの画家≫がよい。小品ながら(ちょっと遠い…)、幼いともいえそうな若き画家としての自画像。画面半分を大きな画架とボードが占め、遠くに小さく描かれた人物は、しかし、画筆とパレットを持ってこちらを見つめ、やや横向きになっている左足のポーズで、画家としての矜持を全身で表している。なんとも微笑ましくも、ひび割れた部屋の壁や気の床の質感のみごとさとともに、天才の自信が強く感じられる逸品だ。

rembrandt_7rembrandt_6 このほかにも貫録の出てきた壮年の自画像、妻サスキアをモデルにした≪書斎のミネルヴァ≫、愛人ヘンドリッキエの肖像も観られる。

 渋い版画作品が並ぶ空間で、いわゆる一般的な“レンブラント”に出逢える、華やかなコーナーだ。質もよいものが集められているので、油彩画を期待してきた人々にも満足をしてもらえる内容だろう。

 しかし、その内面さえも描き出し、衣装のマテリアル感から光の効果的な使い方には相変わらずうならされるものの、個人的には版画が断然よい!

 第3セクション とても変わった技法:レンブラントのキアロスクーロ

rembrandt_8 文句なく彼の描写の天才を十全に感じさせる2点、≪レンブラントの母≫と≪石の手摺にもたれる自画像≫。
 背景に何も描かず、闇のグラデーションをほどこすこともなく、ぽっかりと浮いたように人物が描かれる。顔や手の皺、意思を感じさせる口元、髪の柔らかさや輝き、衣装の素材の違いや着用している人体のボリューム感まで、たった一色、黒で表現されているその迫力。モノクロなのにそれを感じさせない。


rembrandt_10 ≪3本の十字架≫。ゴルゴダで磔刑に処せられるキリストを描いた一枚。十字架に架けられたキリストに天から光が降り注ぐ。周囲の兵隊、見物していた群衆、そして信者たちの群像が反比例に闇の中で周りを囲むその情景は、まるで地獄の情景のようなおどろおどろしい印象を持つ。神の子と共に処刑された罪人の十字架も闇に沈み、その姿は定かではない。
 このステート違いは、光の分量と当たり方、兵士が載る馬の向きの変更など、抗zとその光と闇の効果を追求していた彼の過程をより実感できる。

rembrandt_9 ≪エッケ・ホモ(民衆に晒されるキリスト)≫。キリストを捕え民衆の前に差し出し、その罪を問うピラトゥの言葉がタイトルになった場面。こちらは上記とは対照的に、白い画面に線画によって描かれた建物からキリストが群衆に差し出されている。その建物の窓から情景を覗いている者、無関心に部屋の中に向かっている者、入口に並ぶローマの高官と思しき人々、そして一段低いところにひしめく群衆。それらが印刷する用紙を変え、細部の描写を変えながら、だんだんと整理されていく。
最終(にちかい?)ステートでは、中央にもはみ出していた群衆は姿を消し、建物のベランダは、舞台装置のように前へせり出し、その情景をよりドラマティックにする効果を生みだしているのが分かる。

rembrandtチラシ_2 絢爛な光と闇の世界、油彩以上に版画が放つレンブラントの天才と魅力にあてられて、フラフラしながら会場を後にした。

 写実と細やかな彫りの調節で見せる明暗の妙。
 まさに「光と闇の魔術師」との濃密な対話は、満足の前に圧倒される。

 とはいえ、展示の意図も、キャプションを含めた展示法も、やっぱりややマニアックかな、と。
 なかなかにハードルの高い企画展。 
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テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

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No title

こんにちは。
私も、ブログ東京西洋美術館の「レンブラント、光と、闇と、」の美術展が行ましたので、起用見深く記事を読ませていただきました。

私も以前来日したレンブラントの作品も含めてレンブラントの芸術について書いてみました。よろしかったら読んでみてください。

どんなことでも結構ですから、ブログにコメントなどをいただけると感謝致しま

Re: No title

dezireさま

こんにちは。
ブログへのご訪問&コメントをありがとうございます。
(読み返していたらあちこち誤字発見、読みにくくて失礼いたしました)

あまりの巨匠過ぎて(笑)、なんとも文章化するのが難しい展覧会でした(汗)。
とはいえ、これほどに版画を集めたレンブラントを国内で観られる機会はなかなかないかと。
サブタイトル「光の探求/闇の誘惑」もぴったりですね。

ブログ、訪問させていただきます!

はしごですかっ!w

展覧会のはしごとはいいですねー^^鑑賞中後にどっと疲れがきそうですが(苦笑)、やってみたいです^^。
レンブラントも好きな質感をもった絵が多いんですが、フェルメールとかに比べるとまだあまり細部まで知れてないので、記事を耽読させていただきました(笑)黒の諧調表現とか和紙刷り版画とか、興味深そうなコーナーがあったんですね。でもマニアックそうで、初心者の僕にはまだまだ敷居が高い展覧会かな(笑)でも素晴らしい明暗を表現できる作家は素敵ですね^^

Re: はしごですかっ!w

チルネコさま

こんばんは!
いつも丁寧に読んでいただき、本当にありがとうございます…(涙)。

この「はしご」はちょっと無謀でした…(苦笑)。
頭パンク状態で、おかげですっかり鑑賞感が遅くなってしまいました…(汗)。
しかも記憶に頼っているため、はなはだ心もとない…。
やはり感動の新しいうちに記録するべきですね、反省。

とはいえ、個人的にはかなりマニアックだな~と感じました。
「レンブラント絶対!」な方やかなり専門的に知識を持たれている方には、
もっと喜びも楽しみも大きかったのではないかと思います。
私には繊細で細やかな黒白世界を観て廻るので精いっぱいでした。
でもやはりその油彩の傑作もたくさん観てきたつもりですが、
版画がすばらしいです!

あとはアムステルダムで、≪夜警≫を観なくては…!(いつか;笑)
ちなみに、最愛の、といっていいくらい大好きな映画監督、P・グリーナウェイが、
『レンブラントの夜警』という映画を撮っています。ご存知ですか?
やや昔の鋭さはないものの、彼らしい解釈と不思議な世界で、ひとつの
レンブラントの姿を楽しめます。(他の初期の作品の方が好みですが)
未観でしたらぜひ!(笑)

チェックです

P・グリーナウェイの『レンブラントの夜警』知りませんでした^^;
chat_noirさんが敬愛する監督さんでしたか。これは『レンブラントの夜警』に限らず
いろんな作品手にとってみたいと思います^^『レンブラントの夜警』は鑑賞メーターで
早速チェックしましたw

Re: チェックです

チルネコ さま

こんばんは!ご興味持っていただけたなら嬉しいです。

P・グリーナウェイ、本当に大好きな監督!
かなりエログロな世界なのですが(笑)、その映像美たるや…!

彼の特徴は、スタジオ撮影が基本、しかもわずか1~2つのセットのみで撮影してまうところです。
作品はまるで舞台を映像化したような不思議な非現実感を帯び、
そこに展開する物語も幻想的というかシュールな世界を構築します。
それがまさに絵画的ともいえる美しい構図と色彩で造られる。

観客はその舞台を観ているかのように、作品世界に入り込むことが許されず、「観客」という“目撃者”にとどまらざるを得なくなる。
この強制感がものすごく徹底しています。観たくなくても視ずにはいられない、まるで視てはいけないものを無理やりに見せられているかのように。

日本で割とメジャーだったのが『英国庭園式殺人事件』でしょうか。

私のお気に入りは、
『コックと泥棒、その妻と愛人』
(これもわりと代表的作品。なんと衣装はすべてゴルティエデザイン、
女性がとてもきれい。ただしラストはエグい)
『プロスぺローの本』
(本好きにはたまらない作品、その映像美は彼の作品の中でも随一だと)
『ベイビー・オブ・マコン』
(あまりの衝撃的なラストに吐き気をもよおし、食べずに入ったことを
よかったと思い、そして何も食べられずに帰った作品。
それほどに陰惨なのだけれど、それを描き切ったことがすごすぎる)

生と性と死を象徴的に、そして人間の根源として表象し続けている監督です。
人が生きるエネルギーとして、そこには食物と人間の身体とが凝った演出で扱われます。

その内容のエグさからか、ややマニアックな作品たちのせいか、
残念ながらあまりDVDでの発売がないのですが…(ちまちまとは探している;笑)

いやー、語り出したらとまらない(笑)これだけで記事になりそうです(汗)。

『レンブラントの夜警』はDVDで入手可能だったかと。ぜひ、お試しください!
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