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みごとなコラボレーション。貴腐的“探偵小説” ―『瑠璃玉の耳輪』―

『瑠璃玉の耳輪』 津原 泰水 原案/尾崎 翠(河出書房新社)
 

 名前は知っているが読んだことのない尾崎翠氏。近年再評価され、その名を目にする機会は増えていたのだけれど。
北見氏のイラストという、一応のミステリファンとしては、ちょっと嬉しい装丁と、津原氏との連名にウズウズと読みたい熱が(笑)。

 恥ずかしながら、ずっと女性だと思っていた(!)津原氏が男性であることを知ったのがつい最近…。
だからといって読後感が大きく変わることはないのだが、その性別を感じさせない透明な空気感には改めて驚かされた。
 その彼が尾崎氏の脚本を、小説として現代に蘇らせたのは、何と魅力的な企画!

 時は昭和初期。
 いまだ大正期の享楽的な雰囲気を残し、やがて軍国主義に彩られていく芽を孕んでいた時代。

 名探偵といわれる唐草七郎の事務所で、当時にはまだ珍しいながら注目されつつあった“職業婦人”としても奇抜な「女探偵」として働いている岡田明子を指名してもたらされた依頼は、いかにも上流階級の夫人からの左の耳に白金で作られた耳輪をしている三姉妹を探して約一年後に一堂に連れてきてほしいというもの。耳輪には、一粒の瑠璃の玉が嵌めこまれており、不思議なことに繋ぎ目も見えず、はずすことができないのだという。

 検事の娘として、自らの論理的な思考や行動力に自信とプライドを持っている彼女は、その依頼主の正体と奇妙な依頼に疑問を持ちながらも、3人の女性の行方を追いはじめる。

 依頼主の要望で雇い主である唐草にも状況を報告できないままに、独りで行動する彼女の前に明かされる真実とは―――?

 明子が避寒のために訪れていた別荘地で一目惚れをした伯爵家の放蕩息子、横浜の暗黒街にその名を馳せる阿片窟の女王、警察にも一目置かせるほどの腕の女掏摸、人形のような美少女、その少女を囲う歪んだ性欲を持つ男、失った片目の代わりにパートナーだった女の名を刻んだガラス玉を入れた旅芸人一座の女軽業師、明子の第二の人格である男装の麗人、定年間近の老刑事などが次々と現われて、絢爛な探偵絵巻が展開する。

 三人の美少女たちの悲しい運命、欲にまみれた大願を成就させるために自らに課した制約に精神を蝕まれ、猟奇的な行動をとっていく男、執拗にかつてのパートナーを追いかける軽業師の妖しい愛憎、横浜にはびこる闇に君臨する女王の乱れた経歴、女掏りの手管と義侠心と老刑事との心の交流が、時代の持つ退廃と享楽、同性愛のエロスさえも盛り込んで、少女たちに飾られる“瑠璃玉の耳輪”に秘められた過去と、秘密職業婦人としての自負と限界に挑む女探偵の意地と誇りが織りなすのは、原色絢爛、奇想天外な、古きよき(笑)「探偵物語」だ。

 幻想的でエログロな世界と、女たちの強さ、いくばくかのドタバタな要素を含んだ展開は、江戸川乱歩や夢野久作の作品を彷彿とさせ、昭和初期のモダニズムやケレン味たっぷりで、冒険活劇的な楽しさを持っている。
 この時代のどこか底抜けた明るさと、同時に底が見えない闇を抱えた空気が好きな人間にはたまらない要素だ。

 おそらくは脚本そのものには、やや構成や展開に強引さがあったろうことを、そして女性作家の作品であることを強く思わせる設定と進行ながら、後半に現代的(あるいは未来的)な科学要素が盛り込まれているのは、津原氏の創作らしい(解説より)。それは文章に性差を感じさせないとても津原氏らしさを添えて、この物語にもうひとつの不思議を生み出している。
 
 さらに探偵事務所の唐草、山崎の下女である寅、旅芸人の大男木助の創作は、物語が持っている、その時代ならば許されたが現代にはやや無理が生じて来そうな現象をスムーズにし、山崎とその欲望の対象となる三人の少女たちの関係により陰湿さや悲哀の深みを与えており、みごとなコラボレーションだ。

 風景描写は限りなく美しく高貴で、描かれる世界は破天荒でエロスとグロテスクに満ちている。この貴族的な退廃と最下層で蠢くアウトローなたくましさの混在。
 浅草、銀座、横浜の風景、大陸への侵攻がはじまり、そうした交流から流入出する民族や阿片を含む怪しげな薬品の数々、そして戦争へと向かう情勢を予感する機敏な商人や役人の暗躍、そのあたりの背景も活き活きとよみがえる。

 まあ「推理」ものとしては現代にはちときつい。
 これはまさに“探偵小説”として、その融通無碍な世界をワクワクと楽しむべき。
 その時、北見氏の装丁がまたにくいレトロ感を与えてくれる。


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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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