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17年目、19作の完結は、人間関係の清算と再生 ―『燔祭の丘』―

『燔祭の丘 建築探偵桜井京介の事件簿』篠田 真由美(講談社ノベルス)
 

 今年にはシリーズ最後の作品が出ると聞いていたのにすっかり失念、このたび書店で見て慌てて購入。
 思えば第一作目の刊行が1994年。実に17年目(!)にしてようやく完結。本編16作、番外編3作の全19編の大作、まずは著者にご苦労さまといいたい。

 絶世の美男をその長い前髪で隠し、偏屈でとっつきにくく、日常生活にはおよそ適応できない、建築学科に籍を置く桜井京介。その明晰な頭脳と冷たいとも思える冷静な判断力で、さまざまな館にまつわる殺人事件を(本人は望まぬままに)解決してきた“建築探偵”シリーズ。
 その犯罪への追求は容赦なく、一見冷酷な現実を突きつけるも、犯人にとっても被害者にとっても、その先「未来」を考慮した解決を提示することを自らに課してきた不器用なストイックさとカッコよさに惚れ込み、なおかつ建築好きに、著者の美術や建築に関する知識の披歴も大いに魅力を増して、ずっと追いかけてきた。

 悪友(?)として、彼の完璧さを上手く崩し、人間らしい側面を見せつける自由人深春、京介の後見人として、彼のストイックさを、大きな心配と愛情で包みながら、突き放して見ているW大教授の神代、そして入り組んだ人間関係の中に生まれ、その歪んだ狂気の中で、その自覚のないままに惨劇を引き起こすことになり自閉してしまった少年、蒼。彼をその閉塞から引っ張り出し、日常へと戻した京介にとって、蒼は自らの過去を切り離す意味でも、今を生きていく理由としても、そして自身が成長していくためにも絶対に欠かせない不可侵な存在。

 彼らは数々の事件を通して、諍い、反発しあい、そして助け合いながら、それぞれの絆を強めていった。
 やがて「館ミステリ」は、彼らの成長と交流を描いていく方にシフトしていき、とうとう京介の抱える闇の解明と、最終的な対決が本作と前作で展開される。

 本名久遠アレクセイ。ロシア人の血を引くクオーターとして(日本人離れした美貌に納得。あくまでも想像上だけれど;笑)14歳まで北の雪に閉ざされた屋敷に育っていた京介。狂信的な宗教の宗主としてその地位を継がせるために、父グレゴリは執拗に京彼を追い求めていた。
 その父グレゴリとの最後の対決に臨むため、彼は大切な人々との連絡を絶って、呪われた血筋である久遠家に戻っていた。

 かつての久遠家での生活は、美しいだけの無力で弱い母、自分への媚びと憎しみを露わにする腹違いの妹、グレゴリに逆らうことなど考えられない召使たちに囲まれた陰惨なものだった。
 そもそもに怜悧に生まれていたアレクセイも、未成熟な冷たさを持ちながら、そこから抜け出すことを望んでいた。そこに迷い込んできた神代と出会い、彼は久遠家と縁を切る望みを実行することを決意する。父の思惑によって作られた優良子弟を入れる学園に入れられた彼は、そこでとある生徒が引き起こした事件の後、アレクセイとしての消息を絶ったのだった。

 一方、「僕は――ヒトゴロシ」謎のロシア語を交えた詩を残して消えた京介を追って、深春や蒼は北海道へ。そこで明らかになる、20年前、すなわちアレクセイが京介になった時に起こった閉ざされた学園での大惨事の顛末とその真相が明らかにされる。
 同時に彼らにも伸びてくるグレゴリの魔手。京介―アレクセイを自らのものとするために、父親が仕組んだ罠とは…?京介と父親との因縁の対決が、神代、深春、そして蒼にもたらした結末とは―――。
 
 最終章としての展開とその結末は、やや神代の行動に驚かされるも、想定内、いわゆる予定調和といえ、ひとつの物語の終わりとしては安心できるオチだ。それぞれの背景も(最初から想定していたわけではないようだが)それほど破綻もなく、哀しさと切ない優しさをまとって、丁寧に繋ぎあわされている。

 ただ、本格ミステリの一環として刊行されてきた初期の精緻な「館ミステリ」の面白さは、回を追うごとに減少していき、人間関係の(特に蒼にまつわる)描写に注力していった感がどうしても残る。
 確かに彼らの造形は当初から魅力的だったし、細やかに描かれている。ここまで愛読してきたのもその要因が大きいし、何より名探偵京介の、事件を解決するたびに不機嫌になる、そして自身の罪を自覚しながら他者を糾弾する苦しみをにじませる影のある過去が気になっていたのも事実だ。さらには蒼の存在が、京介にとっての世界の中心であることも否定はしない。

 とはいえ、ラストは「BLか…?」と思えるほどまでのふたりの“ラブラブぶり”は、やや興ざめ…。
 個人的には最後までミステリの要素をもう少し強く持っていてほしかったかな、と。
 ひとつの館を舞台として展開されるミステリの楽しさは、一話でも充分に独立した作品だったものが、途中からスピンアウトものも含めてかなり読み込んでいないと分からなくなったのが残念なところだ。

 まあ17年もシリーズとして展開し、世の流行も、読者の傾向も大きく変わっていった中では、この変貌は仕方ないかもしれないと思いつつ、どうも「天使」のような蒼のキャラクターが、あまりに美しすぎて、いまひとつなじめなかったことにもあるのかもしれない(へそ曲がりだから…笑)。

 それでもやはり超絶美男の、美的感覚あふれる建築ミステリとして、愛読してきたことに変わりはない。
 もの足りなさを感じながらも、いつも美しく抒情的なタイトルを持つ桜井京介の新しい事件に出逢えないと思うとなんとも淋しいものだ。
 慰労とともに、耽美な世界に感謝、としておこう。

 ※今月、京介を主人公にした短編集も出た。さんざんに言っておいてこれまた読む気満々(笑)。
 また機会を持って所感としたい。


 
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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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