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建築にまつわる喪失と継承のパラレルワールド ―『廃墟建築士』―

『廃墟建築士』 三崎 亜記 (集英社)
 

 先の『海に沈んだ町』の印象がとてもよかったので、ついつい後回しに(笑)。
 こちらの装丁も製図用のマス目紙を使い、二つ折り(カバーをはがしてみると面白い)、図面No.まで入れ込んだ凝ったものだ。

 表題の作品を含み4話の短編集。
 テーマは、建築を素材とした「喪失と継承」とでもいえるか。
 いずれも三崎氏らしい、どこかがずれた異次元のリアル、パラレルな不思議世界に展開されるものがたり。

 事件が起こるのはその街の7階。市議会はすべての7階を撤去することを決議する。たまたま7階に住んでいた「僕」は、ちょっと心惹かれている同僚の並川さんに誘われて、なんとなくその反対運動に参加することになる。激しい抗議運動と、他の住民からの圧力の間で、「7階」という存在に、そして建物がそれを「認識」する意識を持っていることを知った「僕」と反対運動の結末は…「七階闘争」

 外国で、プロジェクトされている廃墟の建築に魅せられた「私」は、<廃墟建築士>として“廃墟後進国”日本にもその文化を根付かせ、向上させるために尽力してきたが、あるとき“偽装”廃墟の問題が浮上し、心を痛めつつその収拾に奔走することになる。“廃墟”の魅力を、そしてあるべき姿を教えてくれた先代の娘を妻として、真摯に廃墟を建築してきた彼が、その晩年に決意したこととは…「廃墟建築士」

 とある田舎町の図書館に業務派遣された「私」。彼女の仕事は、夜間にその野性の本能を目覚めさせる本たちの姿を利用者に見せられるように“調教”すること。“調教”という言葉に抵抗を感じつつも、マニュアルとかつて動物を調教してきた経験から順調に夜間公開に漕ぎつけるが、本の野性を理解しない人間の傲慢とエゴが、想定外の状況を惹き起こす。この経験で彼女が思ったことは…「図書館」

 その「蔵」は意識を持っていた。自分の中のものを守っていた。そして蔵守も蔵守としての自負を持っていた。「蔵」を守っていた。互いに通じ合うことはないながら、「蔵」と蔵守は長い時間を待っていた。いつか訪れる“掠奪者”との闘いの時を。ある時「蔵」は自分の中に異質な存在を認識する。蔵守は委員会から派遣された「見習い」の到来に、変化を感じる。そして“掠奪者”の襲来が迫る。「蔵」と蔵守の運命は…「蔵守」

 登場する建築物は、「廃墟建築士」を除いて、いずれもある「意識」をもった存在として描かれる。
 階数を“認識”する住宅、本の野性を静かに眠らせる“図書館”、何かを守る“蔵”。
 それらは、決して言葉として人間に語りかけることはなく、心を通わせるわけでもないのだが、確かにそこにいる人間の感情に働きかけ、彼らの感情や行動に、ひいてはその環境に影響を及ぼしてゆく。

 とても不思議な世界なのに、なぜか自然で、切なくて、そっと抱きしめたくなるような4篇は、相変わらず、私たちの生きる世界から、わずかに位相をずらした異世界。その“現実”から離れたリアリティは独特で、いまだにどう表現したらよいのか、ぴったりの言葉が見つからない。
 
 そこには氏の持ち味である、現代社会の持つ暴力や、矛盾、ばかばかしさ、人間の欲望、大衆の愚かさ、システムとしての政治の横暴といったものへの痛烈な皮肉も織り込まれ、シニカルでブラックなユーモアとしても機能している。

 そして『海に沈んだ町』と同じく、この物語たちも“滅び”を基底として何らかの喪失を現わしながら、ここではそれとともに、人から人へ、ある意思と技を伝え、受け渡してきた/いく“継承”の形が描き出されている。
 いずれの“受け渡し”も、哀しみと孤独に彩られた希望が、はかないけれど確かにそこに残る。

 私たちが営みの中で造り出した「建築」を愛し、失われゆくものを愛し、そして言い知れぬ孤独を胸に抱えながら、語り継がれ、受け継がれていく“何か”をいとおしむ、著者の想いが、ほんのりとした温度を持つこの世にはない4つの輝石として結晶した。

 “廃墟”に魅せられた人間の姿(ある意味での狂気)を、軽薄な似非文化保護として表層的に追い求める国策の愚かさと対比的に描いた「廃墟建築士」、建物の意識と守人の“こころ”のうつろいをパラレルに追いながら、<守るべきもの>の空虚と立場の多様性を顕わしていく「蔵守」が、文章の造りとともに特に印象に残るか。
 
 現象としてはコミカルさを持ちつつも、そこに展開する悲劇は重たい「七階闘争」の恐さ、<書かれた/読まれたものたちの記憶>の力が嬉しく、こんな光景にちょっとお目にかかってみたい「図書館」も魅力的だけれど。

 三崎氏の発想のユニークさと、その“滅び”が孕む微温の希望、やっぱり好きな世界だ。



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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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