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虚実の破天荒な融合が拡げるイメージの豊穣 ―『ポータブル文学小史』―

『ポータブル文学小史』 エンリーケ・ビラ=マタス  木村 榮一 訳(平凡社)

 
 以前『バートルビーと仲間たち』で、ものが書けなくなってしまう“バートルビー症候群”になった作家たちとして、カフカやホフマンスタール、ホーソーン、ムージル、そして『バートルビー』を書いたその人メルヴィルらのエピソードを読ませていくという、文学における博覧強記な知識と破天荒な創造力に圧倒され、物語の理解は半分以下だなーと自覚しながらも、ものすごく楽しんだ作家の、これまた人を喰ったようなタイトルの小説。

 今回は、“文学史”と名付けられた、ダダからシュルレアリスムに関わったアーティストたちの奇妙な姿を描いた、芸術に関わる「ものがたり」だ。

 スターンの小説に由来している秘密結社シャンディ。その姿がどのようなものだったのかをレポートする「ぼく」の語りは、作品も生き方も軽量であることを求め、日常を超越した感覚で生きる洒落者として、結社に集う当時の芸術家たちの、シュールそのものな生態を明かしていく。

 デュシャンの≪彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも≫(通称≪大ガラス≫)のイメージを強く引きながら、“独身者の機械”であることを秘密結社のひとつの条件として、そのデュシャン、エリュアール、アルプ、ベンヤミン、ブルトン、アルトー、ヴァレリー、アポリネール、オキーフ、カフカ、コクトー、ジャコメッティ、シュヴィッターズ、ブロッホ、プッチーニ、ボードレール、ボルヘス、トーマス・マン、ミショー、ランボー、マン・レイ、プルースト、ツァラ、ポール・クローデル、エルンスト、エリオット、カール・クラウス、サティ、ニーチェ、マリネッティ、レーニンなどなど…19世紀末から20世紀に、小説、詩、絵画、演劇、音楽、政治、哲学などで新たな時代の概念を造り出していった人々が、パリ、アフリカ、ウィーン、プラハ、セビーリャなどを舞台に、トランクに納まる軽量さと、狂気とも思えるような感覚を以って“創作活動”を行っていた痕跡が追われていく。

 そこには、ゲーテやジョイス、レーモン・ルーセル、プッチーニ、ナポレオン、ショーペンハウアーから、マリリン・モンロー、ジョセフィン・ベーカー、ジャック・ラカンまで、果てにはバートルビーやドラキュラ伯爵、ギャツビィ、メルシーナといった小説の人物まで登場し、さらに架空の人間さえも次々と現われて、豪奢な文化的背景の中で、結社の創作活動と、結社を破壊する陰謀の存在に怯え、同時にその陰謀自体をどこか期待する彼らの、常識を覆し、破天荒な言動が綴られる。

 そこには実際のエピソードと彼の創作の虚実が混ざり合い、時空がごっちゃになって、全体として何が史実に基づいていて、何がビラ=マタスの創造なのかが分からなくなる、実に不可思議で悪魔的とすら思える世界が展開する。

 当然、彼の大きく深い知識から生み出された世界にしっかりついていけるはずもなく、おそらくは山ほどに散りばめられた、そのユーモアや、登場人物によって喚起される豊かなイメージをかなり取り損ねているのだと思われるが、それでもこの錚々たる面子が集まって繰り広げられたとする、実にくだらないながら切実で、バカバカしくも真剣な、彼らシャンディたちの大騒ぎと強迫観念にかられた逃避旅行の顛末は、それぞれの創作によって生み出されたものを連想することでより拡がる楽しみに満ちて魅力的だ。

 そしてゴーレムやオドラテク(これらもいくつかの作品の中に生み出されたモノたちだ)といった彼らにまとわりつく謎の存在に脅かされ、それからの逃避で終焉を迎える結社シャンディの最後のひとりのことばで終わるラストは、哀愁と切なさと、それでも軽やかに人々をはぐらかしていく“逸脱”を湛えて、余韻たっぷりの読後感を与えてくれる。

 巻末には、書誌一覧と「シャンディ」のメンバー一覧が付されていて、著者がいかに詳細な芸術史的な史実を細やかに織り込み、有名無名/実在架空、どれほど多くの人間たちを配し、現在に残された“歴史”から、書かれていることを超えて拡がる想像の可能性と文学作品の新しい世界をつくり上げようとしたのかを改めて認識する。

 この作品は、100人の人が読んだら100色のイメージを創り上げるだろう。今私たちが生きて持っている経験によってその色は、印象はさまざまに変化する。そしてその中に引用されている作品たちに未経験のものも、経験したものも含めて、改めて接したくなる魅力を持っている。

 ビラ=マタスは、ガウディやミロ、ダリそしてタピエスを生んだバルセロナ出身。なるほど、この土地の風土は、一種独特の風変わりなアーティストを排出する空気に満ちている。
 “生命を持ち続ける”作品を造り出す彼もまた、カタルーニャが生んだ錬金術師といえるか。

 短い作品ながら、濃厚な空気に触れられる。
 何年かして、またある程度人生を重ねた後にもう一度読み直した時、この「文学小史」がどんな世界を啓いてくれるのか、『バートルビーと仲間たち』と合わせて、そんな楽しみを予感させる、ずっと手元に残しておきたい二冊だ。




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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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こんばんわ

『バートルビーと仲間たち』はメルヴィルが好きだからという程度の心持で読んでみたんですが、僕もイマイチ理解できなかったんですよね~^^;再読リスト最上段です(笑)これもなんだか難しそうですが、芸術的な要素が入ってるというだけで読んでみたくなっちゃいます^^。僕が読んだらどんな色のイメージになるかな^^

Re: こんばんわ

チルネコ さま

こんばんは。
 私も『バートルビーと仲間たち』を手に取ったのは、メルヴィルの作品が大好き!だったためでした^^;
作者の知識についていけず(汗)漠としていたのですが、それでも楽しかったんですよね~『バートルビー』のエッセンスたっぷりなところが。
それで懲りずに(笑)タイトルにも惹かれて今回果敢にも(無謀にも?)再チャレンジしてみました。

 そもそも、ダダやシュルレアリスム運動の中心だった人々を描いているので、その理不尽さやシュールさで、理屈を通り越したところで楽しめます(まあ彼らには彼らなりの切実な理論があったのですが;笑)

 知っている芸術家、その作品、好き嫌い、個々の経験や好みなど、どのエピソードに印象を強く持つかで、秘密結社シャンディの活動の姿が変わってくる作品だと(もちろん、作者ほどの知識や感性を持っていれば言うことなし、でしょうか^^;)

 タイトル通り、作品そものが濃密ながら“コンパクト”なので、ぜひ何色になったか教えてください!さらに読み取れるものが増えると思いますので(他力本願;笑)。

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