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ちょっとブレイク・11 少女たちゆえの非情な悪意 ―『儚い羊たちの祝宴』―

『儚い羊たちの祝宴』 米澤 穂信 (新潮文庫)
 

 あまりの暑さに“絶対零度の恐怖”の帯にすがりついた(笑)。
 映画にもなった『インシテミル』をものした人気の新世代ミステリ作家とのことだが、手に取るのは初めて。

 「昭和」を感じさせるレトロな時代設定の中、上流階級の家を舞台に、少女の“悪意”をテーマにした短編集。
 それぞれの物語は独立していながら、優良子女の通う大学にある、ステータスのある読書サークル「バベルの会」の存在が、緩やかに関連を持たせている。

 地方の事業家の家に生まれたお嬢さま吹子は、この「バベルの会」が毎年開催している合宿に参加することを楽しみにしていたが、毎年その直前に近親者が殺害され、阻まれることに。
 吹子つきの忠実な侍女の手記から語られていた、優雅でかつ淫靡さをまとっていたお嬢さまの環境とその事件の顛末が、吹子の述懐に変わった時、この陰惨な殺人の顛末が明らかになる―――「身内に不幸がありまして」

 母の死をきっかけに、紡績と製薬で財をなした地元の有力者の子であることが分かった「あまり」は、妾の子として、その屋敷の奥に立つ北の館に生活することを許される。そこには本来この家の長男であった早太郎が軟禁されていた。
 彼女は彼の侍女として、早太郎の要求に従い、さまざまなものを購入していくる役目を負う。怪しげな買い物の内容と、彼の軟禁の理由が明らかになった時、そこに現われるものとは―――「北の館の罪人」

 貿易商が夫人のために人里離れた雪山に贅を凝らして建てた別荘の管理を任された屋島。しかし夫人の死により、主人が別荘に来る可能性がないことを知り、時を同じくして雪山の遭難者を拾い、彼を探す捜索隊のメンバーが別荘に助けを求めてきた時、別荘を愛し、状態を完璧に保って、いつお客様が来ても最上のおもてなしを出来るように準備していた彼女の自負がなさしめた行動とは―――「山荘秘聞」

 古くからその地方に君臨していた名家に生まれた純香は、館で厳然たる権力をふるう祖母と、跡取りの男子を産めず、その祖母に人形のように従うしかできない母、入り婿として存在すら無視されている父の元で、家を継ぐ者としてやはり祖母の呪縛に委縮して育つ。しかし15歳の誕生日に与えられた侍女五十鈴によって、外の世界への開眼と祖母に対する勇気を得て、大学に進学、家を離れ「バベルの会」に入会するも、父方の叔父が起こした犯罪により祖母に連れ戻され、その血を持つ「恥」として幽閉される。新たに入れられた義父との間に男子が生まれ、ますます必要なしとなった純香は、食事もろくに与えられず、やがて死を覚悟しながら意識を失った彼女が目覚めた時、そこに起こっていたことは―――「玉野五十鈴の誉れ」

 成金の父の元でなに不自由なく育っていた鞠絵は、大学で「バベルの会」に入り、有力者の子女との交流を深めていたが、ケチな父親が会費を渋ったことを理由に強制退会させられる。そのころ、父は厨女として名高い名料理人を雇い入れその虚栄心を満足させていた。
 成金の父のおかげで贅沢な生活が出来ていることを自覚しつつも、その俗人ぶりを軽蔑し、父が祖父を殺して今の財産を手に入れたことを知った時、そして「バベルの会」の退会の理由が、自身に資格が備わっていなかったためと知った時、鞠絵の自虐的な復讐が計画された。
 彼女の日記を追う形で綴られる陰惨な宴とは―――「儚い羊たちの祝宴」

 いずれもが、旧家にせよ新興ブルジョアにせよ、上流階級に関わる少女たちが、自身の保身や目的、欲望のために巡らせる奸計を表す。
 しかしそれは汚れなき少女たちの「純粋で無垢な悪意」とでもいおうか。
 そこには一切の逡巡も罪悪感もなく、むしろ真剣に、軽やかに一線を超えて、非情で残酷な顛末を導いていく。このブルジョア社会における少女たちによる“悪意”、“犯罪”として全編を設定したところが、人間版イソップ童話のような不思議な空気と残酷さを醸し出している。

 そしてどの篇も、ミスリードの仕掛けを含め、ある程度読者の予測を促しつつ、ラストの一行が効果的にオチとなっている作りは、みごとに統制されていて楽しめる。
 また、共通項としての「バベルの会」にも示されるように、各篇に散りばめられた過去のミステリ作品のタイトルや要素の挿入が物語の奥行きをなお豊かにしており、著者のミステリへの偏愛とこれらの物語の精緻な構成を感じさせて、ワクワクする。

 “お嬢さま”の絢爛たる、そしてとても少女らしい感受性と狡知が光るのは「身内に不幸がありまして」か。
 サスペンスドラマになりそうな「北の館の罪人」は、色彩の魅力にあふれた一作で、著者の美術に対する造詣の深さを感じさせる。この美術的な造形は「儚い羊たちの祝宴」にも発揮されており、そこで示されるジェリコーの作品は、物語の重要なファクターとなっている。ただ、この話で扱われたテーマの恐怖と“儚い羊”の独特の感覚に対しては、ラストはややもの足りなく、かつ予定調和な感が残る。
 「山荘秘聞」は、主人公の抑制された語りと最上の笑みが、人間の狂気を表しており、そのサイコ色の強さが好み。
 物語としての勢いや展開の凄さにオチの一文、そのラストがもたらす余韻の幅、そこからのさらなる残酷の可能性を開く「玉野五十鈴の誉れ」が、タイトルも合わせ造りとしてはもっともよいかと。

 涼しくなる“恐怖”ではないけれど、美しく非情な残酷物語として、暑さは忘れさせてくれた(笑)。


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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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ばんわー^^

米澤作品は3作既読ですが、個人的には当たり外れが多いです、いまんとこ(笑)『インシテミル』は設定が抜群だっただけに惜しい!って感じの作品でしたが、『追想五断章』の全編リドルストーリーっていうのが面白い趣向だなと思いました。本書はフィニッシングストロークみたいなので、また面白そうな趣向をしてるみたいですね。そういえば「バベルの会」って、『ストーリーセラー』に収録されてた米澤さんの短編で出てましたが、続編なんでしょうか?あれはオモチロかったので期待大です。

Re: ばんわー^^

チルネコさま

こんばんは!

さすが、たくさん読まれていますね…。
当たり外れ、同僚もそう言ってました(笑)。『インシテミル』については、なんとなく外れそうな気がして(^^;)、未読のままです…。
解説でもいろいろな手法に挑戦しているといった印象がありますし、作品によって大きく異なるみたいですね。

この作品は、小栗や中井、なにより乱歩の時代を彷彿とさせ、ミステリというよりは奇譚といった方がよいような雰囲気を持っていて、その隠微で耽美な空気と、救いのない(!)残酷さが好みでした。
 作品内にたくさんのマニアックな小説のタイトルや作者の名が出てきて、その筋のファンの方には、もっと「ニヤリ」とさせる仕掛けが盛り込まれているようです(私は一部しか知らなかったので逃したところも多く…苦)。

『追想五断章』は、ちょっと気になっていました。読んでみます~。
『ストーリーセラー』にでてるんですね「バベルの会」。このサークルの存在がなかなか魅力的なんですが、敢えてそこを主筋からは外している造りがよいです。
ただ、ラストの「儚い羊たちの祝宴」の最後を読むと、もしかしたら次回作は、このサークルが舞台になるかも…という感じもあります(笑)。

チルネコさんがこのラストをどう解釈されるか、その『ストーリーセラー』と合わせた時に見えてくるものがあったら教えてください!(読めばよいのだけれど、いつになることやら…^^;)

まあ妖しさも残酷さももう一息(奥行が)あっても…と思わなくもないですが(欲張り…)、短編としてのキレは全編レベルは落ちず、楽しめました。
一昔前の旧家やブルジョア、少女の残酷、に設定しているのが上手く作用しているかなと。
この路線なら次作も読んでみたいかも、です。
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