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19世紀のブリティッシュ・エッセンス ―『ラファエル前派からウィリアム・モリスへ展』―

『ラファエル前派からウィリアム・モリスへ展』 (目黒区美術館)


Pre_Raphaelists_and_William_Morrisチラシ かっちりとしたイギリス美女を楽しみたいなら、ラファエル前派。
 やや男性顔、頤のラインと鼻筋がくっきりとした女神たちは、その眼に憂いを湛え私たちを(男性を)魅惑する。“ファム・ファタル”、まさにそこに身を投じれば破滅が待っていると分かっていても踏み込まずにいられない誘惑。
 それらが神話や聖書、中世騎士物語のイメージをまといながら、金を多用した額縁や装飾的な衣装、舞台設定の中に収まっているのは、なんとも“禁欲”を感じさせるが故のエロスを漂わせて、ゴージャスで隠微で退廃的に美しい。

 バーン=ジョーンズのそれでもはかなさと清楚さを併せ持った女性像、ロセッティの誰を描いてもひとつの定型に終息される“理想の(実際には彼にとってただひとり永遠の)”女性像、日常風景でよりもイギリスらしい演劇的な世界で輝く彼女たちは、時にその大仰な造りに面白さを感じながらも、抗えない魅力を持っている。とにかく“きれい”だ(笑)。

 とはいえ、まあそれほどの大作が来日しているわけではなさそうで、なおかつモリスは、その卓越したファブリックデザインのセンスに毎回感嘆しながらも、個人的にはあまりに装飾的すぎて絨毯や壁紙としては好みとは言い難く、むしろ本の装飾やステンドグラスの方が好きだし、「どうしようかなー」と思っていたところ、身内がチケットをもらってきてくれたので、終了間近に駆け込んだ。
 そして現在はこれも終了(すみません…)。

 適度な広さの目黒区美術館は、公園の奥に静かにたたずみ、疲れない規模で、いつもコンセプトがよく考えられた展覧会を開催していて、お気に入りの場所。
 ラファエル前派の展覧会(しかも巡回もの)はちょっと珍しい印象がある。カタログをざっと見たところでは、ここに廻ってきて、そもそもの企画展の規模よりはやや縮小されているようだが、さらりと楽しめる内容になっている。

 大きな第一室では、産業革命後の19世紀半ばのロイヤルアカデミーで、思想家ラスキンの影響などにより、中世に回帰する絵画革命運動として結成された「ラファエル前派同盟」の初期メンバー、ハントやミレイ、ダイスとロセッティともに、後期に参加したバーン=ジョーンズが一堂に展示される。特にロセッティとバーン=ジョーンズの作品が多いのは嬉しいところ。

 ハントの≪キリストと二人のマリア≫から始まる部屋は、すでにそのどぎついともいえる鮮やかな色彩とドラマティックな構図、そしてどことなく象徴的な雰囲気を湛えた「物語絵」の世界だ。
 ≪月明かりのエルサレム≫、≪幼いキリストと寺院の博士たち≫など、聖書に題材を得た作品は、油彩も水彩も、ハントらしいくっきりとした色味でそれと分かる。
 決して下手な画家ではないのだけれど、どうもこの“くどさ”がちょっと苦手なんだな…。

 彼らラファエル前派に強い影響を与えたダイスの作品は、≪聖母子≫と≪ヤコブとラケルの出会い≫。
 白い滑らかな肌を強調する“聖なる”青い衣服のラケルは、はにかむようにややうつむいて目を閉じ、その口元にほのかな笑みを湛えているのがとても美しい。その長い首に手をかけて語りかけるヤコブを描いた後者の作品は、聖書に題材を引きながら、観ている者が照れてしまうほどロマンティックな愛の情景だ。
 
Burn=Jones_1 そして水彩やチョーク画ながら、かなりの点数のバーン=ジョーンズが楽しめる。

 ≪ドラゴンを退治する聖ゲオルギウス≫。イギリス絵画が好んで表現するテーマ。スマートな甲冑の美青年が鰐のようなドラゴンの口に剣を刺している。背景にはカッパドキアの姫君の姿が見えるが、さらにその遠景は日常を感じさせる風景となっており、なんとも不思議な空間に忽然と姿を表した聖人。ドラゴンの金属質な体も、まるで喜んで刺し貫かれているような動きの静けさ(翻る赤いマントの割に)もちぐはぐな印象をもたらしていて、マンガみたい。
 
 美しいのは縦長の紙に描かれたふたりの女神。≪ティスベ≫と≪ピロメラ≫。どちらもギリシャ神話の美女。ギリシャ版ジュリエットとして悲恋に自死を遂げるティスベ、その美しさゆえに義兄に凌辱されて舌を切られ、織物に託してその罪を糾弾したピロメラが、その寓意のアイテムとともに描かれている。消え入りそうにはかなげでありながら強い意思を思わせる瞳が印象的だ。

Burn=Jones_2 ≪プシュケを救いだすクピド≫は、抑えめの朱と緑の衣装の対比が美しく、その衣の翻りが駆けつけて抱きとめるクピドと驚きながらも受け止めているプシュケを一陣の風が包み込む楕円の中に収めて、視覚的にも心地よい一枚。

 ≪聖カタリナの復讐する天使≫の毅然とした姿、≪歎き≫の精緻な構図と物語性たっぷりの画面、そのまま朗読の声が流れて来そうな情感たっぷり。
 そのほか≪ルネ王のハネムーン≫、≪薔薇の心≫、≪船に乗るイゾルデ≫など、彼特有の繊細を楽しめる。願わくば油彩画が1、2点あったらよかったな、と。

 迫力だったのは、水彩の同テーマのものも来ているが、イギリスらしいタペストリーの大きな作品≪東方三博士の礼拝≫。
 花の咲き乱れるあずま屋で、三博士の礼拝を受ける母子が、祝福する天使に見守られて描かれる。
 やがて協業することになるモリスが設立した商会による作品。
 やはり聖書からはやや独自の世界への飛躍が見られるが、顎のとがった天使は浮遊しており、聖母の横顔もバーン=ジョーンズそのもの。ウール地に絹で刺繍された豪華な一枚だ。

 そこには、ウィリアム・バージェスがデザインした、男女の人魚が背に描かれた椅子や、彼らに影響を与えたラスキンの著作(豪華な革張り)も展示されている。

Millais 予想していなかった出逢いに喜んだのが、ミレイの≪めざめ≫。
 真っ白なベッドで朝目覚めた少女が描かれるこの一枚は、眠りからの目覚めにとどまらず、少女が子どもから思春期への初めの一歩を踏み出したような、精神的な“めざめ”をそのどこか不安げに空を見つめる表情に、ミレイらしい精緻な筆致でみごとに表現している。
 ミレイの作品が1点しかないのは、ラファエル前派としてはちょっと不満ながら、完成度の高さから言えば、この展覧会中随一だったので、よしとするか(笑)。

Rossettii_1 そして代表者ロセッティでは、何といっても≪マリーゴールド≫がよい。
 暖炉の上にマリーゴールドの鉢を措く若い女性の姿。しかしその瞳は気だるげに別の場所を見つめ、彼女の心を忖度したくなる。“聖母マリアの黄金の花”、花ことばに「信頼」と「嫉妬」「悲しみ」と「濃厚な愛」などを持つこのタイトルと合わせた時、彼女の表情はさまざまな物語を紡ぎだしていく。
 黒い頭巾からこぼれ落ちた赤毛、その色っぽい流し目、太い首とぽっていした唇、いずれもロセッティ特有の特徴を備え、これぞラファエル前派という感じ。


Rossettii_2
 また、詩の彫られた自作の金の額縁に収まった≪愛の杯≫(ちょっと気後れする騎士道精神の詩だが;笑)、気だるげにその長い赤毛を梳る≪レディ・リリス≫(名前のごとく妖しいまでに蠱惑的だ)の油彩のほか、チョークで描かれた≪マイケル・スコットの求婚≫、≪アレクサ・ワイルディングの習作≫がすばらしいデッサン力を感じさせ、印象に残る。

Waterhouse このほか絵画作品では、フレデリック・サンズ、アーサー・ヒューズ、ウォルー・クレイン、ウォーターハウスなども数点ずつ来日している。ウォーターハウスは≪フローラ≫と≪南の国のマリアナ≫だが、うーんもう少し完成度の高いものが欲しかった…。

 次の部屋では後期に活躍し、ますますその象徴性を高めながら、やがて「アーツ&クラフツ運動」として芸術を実用に応用するモリス商会の工芸品へと拡がっていく過程を2つのコーナーで見られる。

Burn=Jones_3
 モリスとバーン=ジョーンズはステンドグラスがみごと。≪ラケル≫のブルーの美しさ!やや緑がかった白の背景に、金のニンブスを背負う聖女の壺を持つ肢体のバランスは、ため息が出る。
Morris モリスは、≪シンバルとリュートの奏者≫のたおやかで上品な作品。白い柱と衣装、黄金を思わせる髪と背景の布地の黄色は、そのまま天上の音楽が聴こえてきそうな輝きだ。
 彼らの動きの少ない、敢えて言えばぎこちないほどの形態に収まった人物像は、黒い枠によって囲われ、分断されるステンドクラスに本当によく合う。
 バーン=ジョーンズは、ギリシャ神話の女神たちを描いた4枚のタイルも、先の水彩作品と共に観られるのがよい。

William_Morgan 工芸部門では、ウィリアム・ド・モーガンの陶器が印象に残る。ラスター彩色された、ややラメがかった赤で描かれた≪白鳥≫や≪孔雀と鷺≫、≪鹿≫や≪コウノトリ≫などは、楽しくデザイン化されていて、絵柄としても、その微妙な輝きでも見応えがある。

 約100点ほどの展示ながら、超一級品とはいえない作品が多いせいか、それほど疲れずに一巡できる。絵画作品では水彩やチョーク作品が、油彩として完成される前の繊細で微妙な陰影を感じさせてくれるのがよいか。

 どちらかというと、そうした詩や文学から派生した“物語絵”の世界が、やがてイギリスの生活の中に拡がり、デザインや工芸のモチーフとして活用されていく、19世紀中葉から末のイギリスの文化的な流れのひとつとして「ラファエル前派」の隆盛とその波及を観られる展覧会だ。

 そこには、もちろん彼らが回帰しようとした中世騎士物語や神話、自然崇拝だけではなく、ラスキンをはじめとする当時の思想的な背景、近代化されていく都市生活に対して、彼らアーティストたちが芸術が持ちうる可能性をどのように捉え、そして表現して行こうとしたのかが、イギリスという国の持つ歴史と不可分に息づいてることを感じさせる。

 そのデッサン力やデザイン力は別として、ラファエル前派の絵画が、どこか不器用でパターンに収まりがちな中で保ち続ける魅力とは、その美しさはもとより、その奥にひそむさまざまな意味やどこか妖しい空気、やがて象徴主義へと流れていく豊穣な印象(空気)だろう。

 19世紀のブリティッシュ・エッセンスには浸れる空間。
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テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

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いいなぁ~

暑い日が続きまね。

chat_noirさんの美術館巡りの所感・・・
いつも羨ましく、指をくわえて読んでいます。
田舎に住んでると美術館巡りなどは夢のまた夢。
出かけるにも一泊は必至だし・・・
chat_noirさんのUPでいつも覗きこんでる気になり毎回楽しんでいます。
これからも美術館のご紹介をヨロシクです。

Re: いいなぁ~

あんごま きなこさま

ほんとに暑中お見舞い申し上げます…。
すっかり暑さにやられて、ついつい先延ばしにした結果、
このところ観た美術展がのきなみ終わっていました…(汗)。
間抜けな所感アップですみません。(実はまだ残っている;笑)

にも関わらず、何よりも嬉しいコメントをありがとうございます!
まとめているはずが、どうしてもあれも、これも、と長々と重ね、
非常に読みにくいレポート続きで、自分でもうんざりするんですが、つい…(笑)。

確かに東京にいる意味のひとつがこの展覧会巡りの利便性でしょうか。
暑くてうるさくて、物価は高く人も多くて、空気悪いんですが。
私はあんごま きなこさんの四季豊かな視線にホッとさせていただいています。

そう言っていただけると、とても張りあいになります。
できるだけ独りよがりにならないよう、画像を楽しめるようにがんばろ!と
気合い新たに懲りずに発信させていただきます~。

本当に何よりのお言葉です(泣)。
心よりの感謝を。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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