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アメリカン・モダンの秀逸コレクション ―『モダン・アート,アメリカン展』:その1―

『モダン・アート,アメリカン 珠玉のフィリップス・コレクション展』 (国立新美術館

Modern_Art_American_チラシ1
 ワシントンにある個人コレクターの美術館から、アメリカン モダン・アートを概観できる作品たちが来日している。

 フィリップス・コレクションは、何もかもが巨大でだだっ広いアメリカには珍しく、こじんまりとした(あくまでもアメリカン・サイズとして;笑)美術館で、とても身近に作品たちと対話できる空間をもっている。とはいえ、その内容は、MoMAにも引けを取らない充実したラインナップだ。

 かつて、地図も持たず、突然N.Y.からアムトラックに乗ってこの美術館だけを訪れたことがあった。(ホワイト・ハウスもスミソニアンにも行かず…)
 クレーのかなりのコレクションを持っていると聞いていたので、それを目当てにたどたどしい英語であちこち聞きながらなんとかたどり着いたそこでは、特別展『ヴィヤール展』を開催しており、思わぬ発見の個展であったものの、目当てのクレーは観られなかった経験がある。
 しかし友人と離れて初めて独りで歩いたこの美術館までの冒険(?)と、静かで作品に近い会場の空気(ヴィヤールだったからなおさらだったのだろう)が、私にとってはアメリカで大好きな美術館として記憶されている。
 きっと今行っても再び迷うんだろうな…。

 アメリカの絵画史はヨーロッパほどに接していないのだけれど、チラシのオキーフとホッパーにはやはり惹かれての訪問。

 章立ては基本時系列に10章。
 19世紀末のロマン主義、リアリズムや印象派から20世紀、アメリカがその主体となる抽象表現主義までと、同時にアメリカならでは生まれえた自然や多民族といった要素を入れ込んで、60年代までがざっくりと観られる構成。

 正直なところ、ちょっと細切れすぎやしないか、と。一部章内の作品も、やや無理やりな印象も…。
 まあヨーロッパの影響から、大戦時の亡命者によるアートシーンの移行、その影響からの新たな潮流の発生、という流れを考えれば、多様化していくモダン・アートをテーマ分けするのはなかなか難しいのだな、という印象を改めて持つ機会にはなったが。

 第1章 ロマン主義とリアリズム
 第2章 印象派


 暗い色調のロマン主義・リアリズムと、明るく輝く空気を持つ印象派、残念ながらこのあたりはヨーロッパのそれらに比すとどうしてもやや地味め。

 中ではアルバート・ピンカム・ライダーの≪月明かりの入江≫が、単純な線と色面で、やや象徴主義的な趣を湛えているのが好きかな、と。画面のひび割れがひどいのがちょっと惜しい(わざと?)。

 ひときわ茶色の画面で沈んでいるはずなのに、その構図と独特の空気で引きとめたのは、やはりウィンズロウ・ホーマーだった。≪救助に向かう≫と題された一枚、荒涼とした斜面の中央に佇む女性ふたりと、ロープを片手に後を追う帽子の男の背中だけが描かれた作品、救助されるのは、その先にいる人なのか、それとも風の中の女性なのか、いまひとつストーリーが判然としないながら、とても印象的な作品。
 ホイッスラーの女性肖像画≪リリアン・ウォーケス≫も来ているが、ホイッスラーらしい上品な肖像画だが作品としてはまあ小粒かな。

Modern_Art_American 印象派では、モーリス・ブレンダー・ガスト≪パッリア橋≫で嬉しくなる。
 ヴェニスの橋を渡っていく人々の群れ。鮮やかなオレンジや赤、黄色い女性の帽子や傘のカラフルで丸い形態が、明るくリズムよく点々と配置され、眼に気持ちよい。
 遠景の褐色に彩られたこの運河の街のあちこちにもさりげなくこの明るい色彩が繰り返され、女性たちの喧騒に導かれながら、観光都市ヴェニスの一画を望み、そして右側に置かれた内海の鮮やかなブルーが、女性たちのドレスに散りばめられていて、ふたたび前景の群衆へと戻ってくる、この視線の回遊が楽しい一枚。

 アーネスト・ローソンの≪春の夜、ハーレム川≫も、薄明るいグリーンがかった紺の中、夜の川辺の植物とその傍で明かりを灯した家の窓の光が、白と黄色の色点として散りばめられて、温かさを持ち始めた春の空気を伝える。

 第3章 自然の力

 もう少し絶対で雄大な自然の作品を思っていたが、今回のコレクションは、静けさと繊細さが現われているものが多いようだ。
 ロックウェル・ケント≪若い男の埋葬≫は、一列に並んだ葬送の風景が、クールベの≪オルナンの埋葬≫を思わせる構図。海辺をほとんど半裸で男の遺体を運ぶ人々は、神話か民話をあらわしたような不思議な雰囲気を持つ。また≪ロード・ローラー≫は、広大なアメリカ大陸らしい、人の何倍もあるロード・ローラーで雪道を固めていく男たちが描かれ、そのローラーの大きさがインパクトある作品。こちらも男たちの描かれ方にクールベの影響を感じる。

Modern_Art_American_2 そして今回の出会いで最も気になったジョン・マリン。各章に数点展示されているのだが、いずれもがなぜか目に留まる。ここでは≪ウィーホーケン連作、No.30≫。小さな油彩に筆の跡もはっきりとした荒いタッチの風景画、やや高いところから海へ向かった俯瞰の図だが、全体としては灰色のトーンの中に、太陽の光に紺・黄・赤のひと塗りを重ね、海の反射の黄と白、手前の土の朱、樹木の黒の配色がよい。なによりこのタッチが好みだ。タイトル通り連作ならば、ぜひとも他の作品を観たいと思う。

 第4章 自然と抽象
 
 自然を見つめ、その表現を追求していくことで、限りなく抽象へと近づいた作品たちで彩られたこのコーナーは、充実。

Modern_Art_American_3 なんといっても、ポスターにもなっているオキーフ≪葉のかたち≫は、文句なくすばらしい!
 濃い臙脂の下に白い葉、そしてその奥に暗い緑の葉が重ねられ、形態を緻密になぞりながらも、葉脈などをみごとに簡略化した作品の持つ独特のオーラに動けなくなる。大胆さと繊細さ、モノとしての“かたち”と植物としてのエロティックさ、そしてその色彩の対比とハーモニー。シンプルで静謐なのに、とても奥深く饒舌で、いつまででも眺めていたい、お持ち帰り切望作品(笑)。
 ≪白地に暗赤色の大きな葉≫も、このバリエーションと言える一枚で、≪葉のたかち≫ほどの強さはないが、美しく妖しい彼女の植物シリーズの魅力を持っている。

Modern_Art_American_4 ここでその抽象化をもっと強く感じさせるのが、≪ランチョス教会、No.2、ニューメキシコ≫だ。
 タイトルの通り、ニュー・メキシコにある教会を描いたものだが、その形態の単純化と歪みは、建物というよりも、不思議なオブジェのようだ。どことなくダリを彷彿とさせるシュールレアリスム的な夢のような非現実性を持ちながら、砂漠に建てられた墓碑のようでもあり、教会としての神性を損なってはいない。緑がかった青い空に、量塊としての存在感をしっかりと出して立つベージュの石塊は、色彩的にも美しい。

 オキーフの作品は、その陰影の描き方の特徴もあるが、常にモノがモノとしてそこに在りながら、どこか抽象化されて、強い生命感と同時に深層的なものを表面化させる。対峙するといつもゾクリとさせられる、その強靭で官能的な力に圧倒される。
 ≪私の小屋、ジョージ湖≫から一連に展示された4点の作品は、いずれもその魅力を十分に堪能できる良品で嬉しくなる。

Modern_Art_American_5 もうひとり、アーサー・G・ダヴが面白い。
 ≪黄金色の嵐≫は、抽象化された線と面で構成された一枚。風になびく草の鋭角とうねるような空、嵐そのものを現わしたような曲線の塊は、タイトル通り本当に金色で彩色されている(しゃがむと金色がよくわかる)。その鈍い輝きが印象的な一枚。 このほか≪電気を帯びた桃園≫(電気の描き方が面白い)、≪真昼≫、≪朝日≫≪赤い太陽≫(朱色の太陽に施された渦巻きがなんとも可笑しい)など、いずれも単純化された風景が、どこかユーモラスさとそこから生じる不気味さとを兼ね備えていて、とても気になる作品群だった。

 ここにもマリン≪海、ケープ・スプリット、メイン州≫が一枚。こちらはもっと力強いタッチで描かれた岩礁の風景。うねりを感じさせる波に配された鮮やかな青とグレー、そして遠くになるにつれて混ざる茶とグリーン、岩場のゴツゴツした感じと、海のうねりのバランスがとてもよい。これまた好きだなー。どうやら私好みの画家のようだ。

 第5章 近代生活
 第6章 都市


 マンハッタンの摩天楼に象徴されるように、大量生産と娯楽と巨大建築物で、近代が始まったアメリカの都市と生活風景が描かれた作品たちが集められた2章。

Modern_Art_American_6 もちろん嚆矢はホッパー。
 ≪日曜日≫は、ソーホーの一角を思わせるような店の前で、独り腕を抱えて座るスキンヘッドの男の姿。日曜の朝、まだ人の気配のない通りに座り込む男の表情は疲れているような、呆然としているような、画面全体から喧騒と興奮に彩られた都会がふとした拍子に垣間見せる孤独と倦怠を鋭く浮かび上がらせる。

 彼の作品はいつでも昼のあるいは蛍光灯のくっきりとした光の中に対象が描かれるのに、その明確な陰影の中にいいようのない淋しさや人間の埋められない空虚を描き出す。
 とてもアメリカらしい大好きな作家だ。

 この≪日曜日≫を正面で観ていると、左側の視野に同じく彼の≪都会に近づく≫が入る展示構成になっている。オキーフと異なり、(あまり必要性を感じないのだけれど)わざわざ章を分けて展示されているのだが、これはなかなかステキな配置だ。

Modern_Art_American_7 この≪都会に近づく≫も、明確な輪郭線で描かれた、地下に入っていく鉄道の入り口の昼間の風景だが、人の気配を感じさせない無関心な町の空気やビルで遠くが見えず、地下へと導かれる視線に、何ともいえない憂愁が感じられる一枚だ。鉄道でN.Y.に向かった時の気分を追体験しているような気分になる。

Modern_Art_American_8 もうひとり挙げるとすればやはりスローンだろう。
 「近代生活」では≪化粧をする道化師≫、「都市」では≪冬の6時≫の2点。
 前者は楽屋で準備する老齢の道化師の姿。疲れた背中とその表情が、娯楽の裏側の人間の孤独と疲弊をみごとに表す。全体が茶色のトーンに統一された中、衣装とメイクの白が、楽屋の薄暗い照明の中に浮かび上がる。遠くからでもひときわ目を引く一枚だ。
 後者は早朝の鉄道駅の風景。まだ明けきらぬ薄明の空の中、すでに仕事に向かう男女の群れと、それらを都会へと運ぶ高架鉄道の様子が描かれた一枚。冬の凍った空気と、人々の吐く人いきれ、鉄道が立てる金属的な停車音が感じられる、もうひとつの都会の貌を映しだしている。

 さらにまたまたマリン。≪ブライアント広場≫は、グレーを基調とした中に、広場から見える要素をややキュビスム風に描きこんだ作品。広場に建てたられたのであろう銅像のシルエット、前を走る車、路面席を設けたカフェや、露店らしき店、背後にはアパートメントやオフィスビルと思われる近代高層建築と、画面にごちゃっと盛り込んだ感じがよい。これまた愛おしい小品。

 また、ここではステファン・ハーシュの2点が印象に残る。
 ≪ニューヨーク、ロウアーマンハッタン≫と≪工場の町≫。
 モノトーンな色彩で、建物を、河川を、そこを行く船をやや陰影をつけた平坦な塗りで重ねた画面は、いずれも近代的な都市の風景を描きながら、生命やその動きを感じさせない無機質な空気と静寂の中に、近代化が喪失していくものや生み出す影を象徴しているようで、ホッパーとは異なった、個としての孤独ではなく、都市としての寂寥を描いていて気になる。
 その不気味さは、描かれたものの構図やその色のトーンが美しいだけになおいっそう、非現実性を帯び、どことなく淋しい「静かなる夢の廃墟」といった感じか。

 ここまで観てきて、フィリップス夫妻のコレクションのひとつの特色として、作品がとても重層的なイメージや印象を持つものが多く集められているな、と感じる。
 もちろん今回のセレクションが、と言うだけかもしれないが、アメリカの美術を集めたこのコレクションは、単に美しいとか、洗練されているのではなく、どこか背景に寂寥を、あるいは影を湛えているもの、何かしら意味深な空気を持っている。
 
 中には、おそらくはブロンクス側の対岸から描かれたのではないかと思われるマンハッタンに雲間から現われた陽が差し込んでいる作品に≪パワー≫と名付けてしまう(!)、あまりにもアメリカ的なもの(エドワード・ブルース作;作品自体はなかなか美しい風景画だが…)もありながら(笑)、私としては、その作品たちが持つ奥深さを楽しめるのが嬉しい。

 長くなりそうなので、本日はここまで。
 続きは次回に(汗)。
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テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

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オキーフ

出張がてら国立新美術館でオキーフの絵画に逢えました。本当に念願の作品が見られ、やはりアメリカのオキーフ美術館へ行こうと決意を新たにしました。

Re: オキーフ

YURIKOさま

コメントをありがとうございます。

念願の作品に出逢えたとは、よかった!!!
そのお気持ち、よく分かります~。
(私もマティスのダンス(パリ市立)を目にした時にはその瞬間に涙がでました)

この展覧会は巡回はないんですね…。
お仕事とはいえ、タイミングがよくてよかったですね!

≪葉のかたち≫、
本当に作品の前でため息をついた美しさでした…。
いまでも思い出すだけで心が騒ぎます。

私もオキーフ美術館にはまだ行ったことがありません。
持って帰りたいものがたくさんあって苦しみそうですね…(苦)。
ちょっとしばらく海外は望めそうにないので、行かれましたらぜひ
感想をお聞かせください。(うらやましくて悶えそうですけど;笑)
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