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復讐劇に託す国家陰謀と家族愛だけど… ―『ヨリックの饗宴』―

『ヨリックの饗宴』 五條 瑛 (文春文庫)


 とある書店で新刊本の上にポツンと置き去りにされていた。
 ちょうど同僚から彼女(女性であるというのもちょっと印象的だった)の名前を聞いていたし、タイトルに目がとまったので、これも出逢いかな、と。

 与党の歴史的敗北で生まれた連立新与党による国内政治は、スキャンダルとゴシップとで短期間で総理が入れ替わり、いままた内閣支持率が下がっている状況。
 これを離れた立ち位置から見ている“主人(マスター)”の存在。彼のメモから生まれる4人の名前。オズリック、ラモンド、ゴンザーゴ、そしてヨリック。遠い未来(先)までの展望を持ちながらこの名前が囁かれる時、かつての大物政治家が引退前に仕組み、眠っていたはずの“システム”が動き出す――。

 家族を虐待し実の息子に生涯消えない障害を残して失踪した兄。その暴力を知りながら手をこまねいて、見ぬふりをしていた自分を責め、兄を憎み、甥を慈しむ耀二は、義姉の再婚を期に転職を決意し、逃げていた実家に戻ってくる。 
 義姉は兄の失踪後も婚家に居続け、兄と妹二人の子供を育てていたが、再婚が決まり出ていくことになっていた。

 自分を慕ってくれる大人しく年齢よりも幼い姪、そして兄の面影を持ち、虐待の後遺症を持ちながらも元気にふるまう甥に限りない愛情を感じ、反動的に身勝手な兄に憎しみを募らせながら、いまからでもできることをしようと新たな決意を持っていた耀二は、兄に送られてきた一枚の訃報ファックスを機に、忘れようと思っていた兄の消息を追うことを余儀なくさせられていく。

 その過程で聞くことになる「ヨリック」という名前、怪しげな男佐竹や、美しくも強靭な肉体と意思を感じさせる女悠子が絡んできて、彼の周囲は不穏な空気に包まれていく。
 そして消えたはずの兄の存在を近くに感じた時、彼の憎しみは強い愛情と相剋するものであることを改めて自覚し、甥が、彼らの家族が抱えていた闇の部分も明らかになり、同時に兄が国家を揺るがすほどの機密に関わっていたことが明らかになっていく。
 政権交代のカウントダウンが始まりつつあるこの時に、その機密の獲得をめぐり、さまざまな組織、団体が“ヨリック”の正体、行方を追って耀二とその家族に近づいてくる。
 “ヨリック”と名を連ねる3人とは何者なのか、彼らが関わっている計画とは、その計画が抱える機密とは…?そして兄栄一はどんな役割を担っていたのか…?

 その趣味もしぐさも意識せずに身につけるほどに大好きで憧れた優しかった兄、自分の息子を半殺しにするほどの憎しみをぶつけ家庭を捨てた兄、その血縁の濃さゆえに激しい愛憎がもたらす兄弟、そして親子の関係が、国家の陰謀と他者の野望や復讐の中に描かれる、政治サスペンス。

 …なのだが、どうも人物造形、各自の感情の深さ、そして国家規模の謎(計画)ともに薄くて浅く、漠とした印象の読後感だった…。

 連立与党の迷走と短期間政権の交代など、まさに今の政治状況にも通じているが、むしろ90年代の村山政権時の姿に敷衍させているか。
 これまでになかったオウムのテロ事件、関西・淡路大震災と、困難だけを背負って消えていった戦後最大の与野党逆転劇。その総理の記憶は、大事件の記憶ほどには人々の脳裏に残っていない。
 (思えば現民主党でも東関東大震災、福島原発の汚染事故、となぜか非常事態時に政権を持っているな、と…)
 そんな政治の中で堆積した人々の欲と恨みと復讐が、『ハムレット』の(それほど記憶に残らない)登場人物の名前を持つ人々によって守られて生きた機密と絡んでいく造りは面白いと思う。

 しかし、正直その「機密」自体が今ひとつ起爆力を持たず、曖昧なものにとどまるので、サスペンスとしての盛り上がりに欠けたまま終幕となってしまう感が否めない。「主人(マスター)」も(たぶん)あまりに大き過ぎて、そのパワーの重みや怖さを実感として感じられないのも、同様だ。
 この機密のための計画に選ばれ、そして守ってきた人々の動機や忠誠心も今ひとつ説得力に欠ける(経済的に助けられた恩だけ…?)
 現政権で権力を保持したいと望む政治家、「ヨリックの饗宴」の発案者である大物政治家の愛人、耀二の職場の人間、つらい親子関係を持っている甥姪など、相関関係の造りは出来ているのだが、どれも人物としての存在感と厚みが足りず、物語のための“駒”にとどまってしまう。そのせいか、割と早い段階でこれらの人々の正体というか動きが読めてしまい、登場人物たちの結末は予想を裏切ることがない。栄一の妻などはなかなか重層的なキャラクター設定をしているのに、結局最後は尻すぼみで消えていくのももったいない。

 そして親子ゆえの、そして兄弟ゆえの強い愛情が生みだす憎しみをテーマにした家族の描写も、兄栄一の造形が中途半端で、「記述」としては理解できるが、深みとして入ってこなかった。
 何より、この兄弟、父子は美型・秀才型の家系として設定されているのだが、どうも耀二がその血を受け継いでいることを感じさせることに失敗しているような…。(バカではないけれど、あまり美型としてインプットされてこない…汗)
 
 その中では、耀二と悠子の会話のやり取りはリズムよく楽しめ、タイからやってきたアレックスとその身元引受人になっっていた田中とのエピソードが物語としての奥行きを感じさせた。

 現代世相を盛り込んだその現実感と、戦後日本がアメリカに従属して発展を遂げてきた裏に秘められた密約や陰謀、そして家族愛が生む悲劇、これらをシェイクスピアの復讐劇になぞらえた意図までは評価したいが、サスペンスものとしてはいまひとつ肉付け不足かな、と(私が『ハムレット』と政治問題に疎いだけか?)。

 同僚によるとこれではなくて、『R/EVOLUTIONシリーズ』がよいらしい。
 確かにこのシリーズもタイトル&装丁はかっこいい。
 折を見て、こちらを読んでみるか。



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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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No title

ご無沙汰してます。

五條 瑛(アキラ)さんの作品は好きで割りと読んでいます。
この「ヨリック・・」も読みました。でも余り印象に残ってないのです。
それよりも、同僚の方のお勧めする「R/EVOLUTIONシリーズ」の方が私も好きです。
ちょっと長すぎるような気もしてますが。

五條さんの初期作品で、各国の情報機関の丁々発止は面白かったですよ。
(題名が思い出せなくて・・・すみません)
「R/EVOLUTIONシリーズ」の元になった作品のような気が。。。
あと、「ROMRS」も面白いかな? 私の好みばかりでスミマセン。(^ ^)

Re: No title

あんごま きなこ さま

こんばんは!
こちらこそご無沙汰しております。
すっかり更新頻度がおちていますのに、変わらずご訪問いただき、
コメントまで、本当にありがとうございます(泣)。

五條瑛さん、お好きな作家さんだったのですね。
『ヨリック』がご記憶に残っていないと聞いて安心しました…(笑)
なんというか、設定は大きく重いはずなのに、いんですよね、印象が…。

おススメの「R/EVOLUTIONシリーズ」試してみます~。
これってかなり装丁がかっこいいですよね。
文庫の方が場所とらないんですが、この装丁のために、
単行本にしようかと…(笑)。

初期作品、探してみます。
嬉しい情報をありがとうございます。

なかなか追いつかないのですが、こうして
世界が広がっていくのがとても楽しいです。
おかげで自宅はほとんど私設図書館…。
近頃未読の比重の方が高くなって、反省しつつも、
それらを見てにんまりしてしまう、こまった病気です(苦)。
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