FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「物語」で報復する手法は魅力だが… ―『蛟堂報復録 Ⅰ』―

『蛟堂報復録 Ⅰ』 鈴木 麻純 (アルファポリス文庫)


 最近マンガかラノベのような表紙の文庫が増えてきて、ターゲットが若い人たちに向いているのだなーと、己の年齢を淋しく思うことしばしば。
 とはいえ、ヘタな劇画調のものよりは目に留まることが多く、これも「結構好みな主人公かも(笑)」と思っていたら、同僚がすでに入手していたので借りた。

 とある街の路地深く入ったところに、漢方薬局兼雑貨(といっても日常には役に立ちそうにもないものばかり)屋の「蛟堂(みずちどう)」はある。
 こんな人通りの少ないところで果たして商売が成り立つのか、と思うような立地の店は、江戸時代から続く老舗、現在の店主は、12代目の若くて二枚目な三輪辰史。実は彼の一族は、中世まで遡れる陰陽師の家柄であり、江戸時代にその権勢を誇っていた特殊能力を持つ血筋。この店は表向きの顔であり、本業は晴らせぬ恨みを請け負う“報復屋”で、辰史は、祖父の血を色濃く継いだ、その道の天才だった。

 彼の元に舞い込んでくる恨みの報復を、古今東西の「物語」になぞらえて果たしていく三輪辰史を、隣接するやはり一風変わった古書店主とバイト学生、不思議な配達を請け負う稲荷運送の店主などを交えて描く、仕事人の怪異バージョン、といったところか。

 文庫Ⅰにおさめられたのは、結婚詐欺に遭った女が裏切られた憎しみを晴らしたいと依頼をしてくる「清姫」、両親の離婚と祖父の家に預けっぱなしにされた青年の鬱屈が暴力へと向かった時、それを断ち切るべく哀しい決断をした妹の願いを叶える「ピノッキオ」、心を尽くし物を貢いでなお報われない男が、女の薄情に恨みを晴らす「赫夜姫」の3編。

 いずれもありがちな世の悲哀と憎悪と恨みをベースに、それらの解決に「物語」の筋を絡めて「報復」を果たす、という造りは面白い。また、主人公辰史が、必ず依頼者へ業を背負う覚悟について語ること、そして報復される相手に改悛の余地を残しているにも関わらず、結局自身の昏い欲望に負けてしまう皮肉を用意している辺りなどは、高額な報復料を請求する仕事のやり方と共によく盛り込まれていると思う。

 しかし、残念ながらどうしても展開、キャラクターいずれもの造形が甘くて浅く、好ましく思える人物がいないのがつらい…。

 辰史のお目付け役として同居する甥の太郎の目を通して描かれる店主は、天才の傲慢と我儘を併せ持った実に扱いにくい人物。しかもこの世で一番好きなものはお金という守銭奴。
 彼の決まり文句は「地獄の沙汰も金次第」であり、人の弱み(恨み?)につけ込んで大金を請求する叔父に反発し、厳しい言葉をぶつけながらも、裏稼業を手伝うことになる甥は、しっかりものの世話女房的役割だ。

 だが、辰史のアクの強さも中途半端だし、太郎のヒステリックな叔父批判も奥がなさすぎる視点でいまいち共感できない。
 辰史の恋人であり、稲荷運送の主人である比奈も、彼にとっては女神であるのだろうキツネ憑きの聖性は纏っていながら、ふたりの恋模様はまるで学生のそれで、あまりにピュア(うぶ)すぎて興ざめする(特に辰史のヘタれぶりが…)。
 辰史のやり方に異を唱える従兄弟の存在(三話目に出てくる)も、シリーズのメンバー紹介を兼ねてなのだろうが、ちょっと唐突だし、高額で報復を請け負うことに対する報復を無にするという対立構図もあまりに短絡的なものとなっていないか。

 そして、もちろん当事者にとっては切実な想いなのだが、なによりも依頼者たちの「恨み」の強度が伝わってこない。ある意味では逆恨みとも思える恨みだからこそ、その理不尽さがもう少し出てほしいところ。
 さらには、どんなに憎い相手としても、「報復」することの罪は、まさに「穴二つ」のはずだ。そして裏稼業としてそうした人々の恨みを“買って晴らす”人間たちの“業”も同様に重たいものではないか。

 『仕掛人梅按』の背負う「しょせん人殺しは人殺し」と己の仕事を醒めた目で見つめ、その罪を背負って生きる姿に感動した私としては、その辺りの「重さ」がどこかに欲しかった…(だからこその高額報酬ではないの?)。

 なかなかに魅力的だったのは、ほとんど脇役としてしか出てこないゆえに(!)、却って不思議な古書の管理人としての存在感を大きくした古書店主の鬼堂(実は主人公よりもこちらの方が好みかも;笑)。

 「物語」の絡ませ方としては、やはり第1作目「清姫」がよいか。安珍に裏切られ蛇となった清姫の恨みが、暗闇から現代へと繋がって、結婚詐欺の青年へとかぶさってくる描写の幻想と現実が微妙にリンクするところは迫力がある。

 もともとサイト上で連載していたものが人気を呼び、単行本ではすでに7巻の予定まであるという。
 文庫はまだ1巻、シリーズで造形も人間関係もこれから深まっていくのかもしれないが、つかみとしては弱いかなー。

 「蛟堂」の名称がかなりかっこよく、コンセプトもよいだけにちょっと残念。
 これもまた、現代の「仕事人」のある種軽やかなスタンスに私がついていけていないだけか…?


スポンサーサイト

テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

chat_noir

Author:chat_noir
FC2ブログへようこそ!

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
11 | 2018/12 | 01
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
タイム
検索フォーム


リンク
アクセスランキング
参加しています。よろしかったら投票お願いします。。




人気ブログランキングへ

ブログランキング・にほんブログ村へ
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。