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大人向けには足りない、“神話”が持つ混沌の描写 ―『空色勾玉』―

『空色勾玉』 荻原 規子 (徳間書店)


 ファンタジー好きの同僚が借してくれた一冊。

 『古事記』『日本書紀』をベースにした、神々の闘いが行われていた古代日本の物語。

 神々の争いのために、村を、両親を失い、輝の大御神を祭るとある村に養女として育った狭也は、対抗する闇の一族の神から、実は彼女が闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられる。幼い頃の記憶もない彼女にとって、憧れていた輝の王子月代王に敵対する存在であることはとても受け入れられる出自ではなかった。

 村祭りの夜、自分の美しさにも無自覚だった彼女は娘たち同士の約束によって求婚者を受け入れることもできず、独り悲しく森を彷徨ううちに月代王に出逢う。その輝くばかりの美しさに一目ぼれした狭也、そして彼女が「水の乙女」であることを見極めた王子の招きにより、彼女は彼らの宮殿のある豊葦原の中つ国の中央、まほろばに采女として同行することになる。

 しかし都会の侍女たちの蔑みと嫉妬にさらされ、月代王のふたごの姉照日王の敵視に会い、そこにいることに疑問を持ち始める。
 彼女を見守るために姿を変えて入り込んでいた闇の一族の鳥彦が捕らわれて祭祀の生贄とされることを知った狭也は、持ち前の負けん気の強さも手伝って、彼を助けるべく禁忌とされている神殿へと入り込み、そこで輝の大御神の末子稚羽矢に出会う。
 彼こそは、輝の一族をも恐れさせる闇の剣、八又の大蛇の化身、大蛇の剣を鎮めている「風の若子」であった。

 自分が闇の一族の血を継いでいること、そして稚羽矢の境遇に同情を感じた狭也は、まほろばを出て闇の一族と合流、照日王や心惹かれる月代王と対決することを選択する。

 輝と闇の神々の闘いの行方は?そして「水の乙女」である狭也の存在意義とは?そして稚羽矢の力とは両神々の闘争に、そして狭也に何をもたらすのか――?

 イザナギ・イザナミの国造りから黄泉巡りと別離によって分けられてしまった光と闇の世界。彼らから生まれた神々が日本の覇権を争い、天照大神たち高天原の神がスサノオの子孫である大国主から葦原中国の統治権を(ある意味で)奪い取り、光の国としての日本の神となった神話を敷衍させて、少女の目からその闘いを追い、同時に彼女の恋と成長が語られる「日本ファンタジー」。

 その舞台と設定は壮大で美しく、豊かな自然と大らかな神と人との関係を提示していてワクワクさせる。

 ――が、残念なことにそれぞれの要素があまりに表層的に流れてしまい、その奥行きを活かしきれていない。
 読み込もうと思えば、たくさんの絡みあう光と闇が見つけられるのに、物語はそれらをぱらぱらと配しただけにとどまってしまっている。
 おかげで、七いろの輝きをもった玉の、その輝きを感じられるのに、つるつるした表面にしか触れられない、見えないようなもどかしさが強く残る。

 何よりも主人公である狭也のキャラクターがあまりに思慮浅く、周りになびきコロコロとスタンスを変える割に、結局自分のことしか見えていない狭窄な心根しか感じられず、イライラする。
 月代王への淡い恋心とその限界を感じた悲しみ、照日王への反発と憐れみ、鳥彦への想い、そして稚羽矢との関係の深化に対する感情の機微、それらがさらりとしすぎていて、浅薄なキャラクターにとどまってしまっている。
 このためか、彼女と闇の神々との関係と心情の推移、闘いの中での想いも見えないままだ。闘いの激烈さも伝わってこない。
 狭也が護身として持っている勾玉も、巫女としての力もいまひとつ活かされない(タイトルなのに…)。

 近親相姦(神だからいいのか…)を示唆する照日と月代の愛憎の深さとそれゆえの悲劇、照日のまさに太陽のように自らが発光する強さと激しさが生む独善、月代の太陽の光によって冷ややかに輝く受動と静けさがもたらす諦念、さらには彼らの御親である大御神と闇の女神との愛と相剋、それらに翻弄される神の子たち、人間たち、そうした争いに対して牙を剥く自然神としての大国主の化身、こんなにも盛りだくさんの魅力的な要素があるのに、描き切れていないな、と。

 これらをすべて読み手の創造力と感受性に委ねるのはあまりにも酷だし、無理があるだろう。
 
 そのなかでは、照日王の周りをも燃やしつくすような激情、雄々しさと女としての陰険さを併せ持った性格と、稚羽矢の感情のない無垢な心が、感情を持っていく過程は、なかなかに魅力的だったか。
 また、人心に不信と不安を生みだしていく照日(神)の策略も日本の神の両義性と、人間の弱さを見せつけてよい感じだ。

 光と闇、ともに対立しながらも相互になくては存立しえないふたつの要素が、神、自然、人間を包む時、そこにはどちらにも正があり、負があり、両方を合わせて生がある。
 日本神話はその混沌とした中に、熱くて冷たいエネルギーを放つところが魅力だ。

 想定がこれほどの世界観を呈しているだけに、「もったいない」に尽きた。

 もともとは児童文学として書かれた本書、分量を含めそこまで要求するのこそ酷なのか。(でもたとえば『イティーハーサ』のようなコミックでももっと奥深いものがあるし…)

 「大人向けファンタジー」として、いや年齢に関わらず、「日本ファンタジー」として、もう少し「語り」に整理と深みがほしいかな。



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ジャンル : 小説・文学

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