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黒の果てに生まれる幻想の色彩 ―『ルドンとその周辺―夢見る世紀末展』

『ルドンとその周辺―夢見る世紀末展 グラン・ブーケ収蔵記念』 (三菱一号館美術館)

Redonチラシ
 しばらく展覧会評は事後レポート…(汗)。
 終了間近ギリギリになんとか来訪。

 はっきり言ってセンスのないチラシ(&チケット)デザイン…。
 小作品の多いルドンのパステル作品の中でどんだけ大きいかを強調したかった、その意図は分かるのだが、とても美術館の造ったデザインとは思えない「ベタ」さ(しかもサイズ表示付き…!)の上に、これでもかと統一感のない色彩の多用…。これまたルドンのパステルのカラフルなイメージを踏襲したかったんだろうが、あれは彼の構成の魔術によって美しく輝くのであって、要素だけを散りばめてもねぇ…。
 しかもなぜか和調なフォントデザイン。もうあまりのバラバラ感にはじめは展覧会チラシと気づかず、危うく受付に「チラシください」とうところだった。

 裏面の作品セレクトを4種類も作成したらしいのだが、そんなところに金額をかけるなら、もう少し表面をどうにかした方がよかったのでは?

 と、いきなりの文句から始まってしまったが、巨大なルドンのパステル画の収蔵祝い。今回の他の作品は基本的には岐阜県美術館所蔵のルドンコレクションなのだけれど、やっぱり楽しみで♪

 そして来館してひとつ改善点が。
 前売りチケットの交換システムが廃止され(たんだよね?)、そのまま入場可能になった。これは嬉しい。

 章立てはシンプルな3章。
 第1部 ルドンの黒
 第2部 色彩のルドン
 第3部 ルドンの周辺―象徴主義者たち

 時系列に黒から鮮やかな色彩へと変貌していくルドンの作品を追いつつ、彼に影響を受け、影響を与えた同時代の象徴主義の画家たちで拡がりを見せる構成。

 第1部 ルドンの黒
 病弱に生まれ、幼少期を親元から離れて暮らしたルドンは、その後建築家を目指すも受験に失敗、初めに入ったアカデミーも師と主張が合わず、あまり恵まれた環境に育たなかった。親戚の老人と暮らした家屋で、家具や階段の木目や絨毯の文様にさまざまなこの世ならぬモノを見い出していた彼の幻想性はその頃から培われていたのだろう。
 やがてブレスダンに出会い、細密な風景の中にロマンや幻想を彫り込める版画の世界に啓かれていくことになる。
 まさにその単色の世界と彼の幻想性が結びついて、独特の豊穣な黒と白の世界を生みだしていく。
 
 代表的な石版画集『夢の中で』は11点すべてが展示され、その奇妙な、悪夢のような、そして宇宙的な世界を堪能できる。
O_Redon_1
 卵を思わせる球体の中に現れる顎がない蓬髪の人物「Ⅰ.孵化」、生まれ出る星々が大きくなるにつれて人間の頭部をなし、宇宙と生命の神秘を現わしたような「Ⅱ.発芽」、蝙蝠の羽のような耳で空を飛ぶ顔を持った黒い球体「Ⅵ.地の精」、巨大な宮殿のなかに闇の光と共に出現した大きな眼球「Ⅷ.夢の中で」、黒い太陽を背景にして、ケルビムを暗転させたような有翼の頭を運ぶ、人間の顔の気球「Ⅸ.悲しき上昇」など、どこか禍々しくも怖れ多い神秘性を持った作品たち。

 その非日常的なイメージはしかし、人間という存在の意味を問う、非常に理知的な無意識世界への探究が感じられる。そのためになおこれらのリトグラフは、ザワザワと心を騒がせる何とも言いがたい不安と安堵の複雑な感情を惹き起す。

 同じくまた嬉しいことに全葉が展示される石版画集『エドガー・ポーに』も、さらに洗練された黒の濃淡、石版の使い方によって、より黒という色なき色の多彩さと、描かれた世界の哀愁を秘めた怪奇性を楽しませてくれる。

O_Redon_2 濃いまつげの眼球が気球となって、不気味な頭部を運びながら沼(か海?)の上を浮遊する「Ⅰ.眼は奇妙な眼球のように無限に向かう」(これは初めて観た時にまるで自分の悪夢を視覚化されたような衝撃を受けた、ルドンを忘れられない画家にした一枚)、眼と鼻の仮面をつけた骸骨が鐘を鳴らし、細いペンで引っ掻いたような線がその鐘の音を表し、そのまま陰鬱な響きが聴こえそうな「Ⅲ.仮面は弔いの鐘を鳴らす」、宇宙を思わせる暗い空間に浮かんだ、深い疑惑か思索を感じさせる目を内包した球体と、その空間と水平線を切り裂くかのように入り込んだ天使はどこか不安げな表情でこちらを上目遣いに見ている「Ⅳ.水平線には確信の天使が、暗い空にさぐるようなまなざしが」など、それぞれに付されたタイトルがそのイメージを補完して、謎を深め、さらに深い意味を追って、ルドンの、そして自らの奥へと入っていくことになる。

 いずれも直接的にはポーの作品を示唆しないが、それゆえにこそより小説の持つ雰囲気を雄弁に語り、さらに豊かな印象をもたらしてくれる。(つい再読したくなる;笑)

O_Redon_3 このほか『起源』からは、眼球の花を咲かせる「Ⅱ.おそらく花の中に最初の視覚が試みられた」や、後の油彩にも現れる一つ目の巨人「Ⅲ.不恰好なポリープは薄笑いを浮かべた醜い一つ目巨人のように岸辺を漂っていた」が、大好きな『ゴヤ頌』からは、老人の頭部を実らせる沼地の植物「Ⅱ.沼の花、悲しげな人間の顔」が、『夜』からは、石板のような重たく羽ばたかない翼を背負った天使の表情が、絶望とも諦めとも取れそうな、それでいて一切の思考や感情を喪失してしまったようないわく言い難い“空”を思わせる「Ⅲ.堕天使はその時黒い翼を開いた」(堕天使の翼の重さが痛い…)、寺院の柱の間に佇む三人の巫女が、悲しげで美しい一幅の詩篇を思わせる「Ⅴ.巫女たちは待っていた」が。
O_Redon_4 『夢想(わが友アルマン・クラヴォーの思い出に)』からは、翼を持った者を襲う黒影が不吉な知らせのような「Ⅳ.かげった翼の下で、黒い存在が激しく噛みついていた」や、友人との日々を懐かしみ、永遠の別れの悲しみをそこに留めて置こうとしたかのような「Ⅵ.日の光」(哀しいと同時にルドンにはめずらしく感傷的なやさしさにあふれている一枚)などなど、見応え充分だ。

 さらに今回は、最初期の版画、そして木炭による素描も楽しめるが嬉しい。
 ブレスダンの影響を強く感じるエッチング≪浅瀬(小さな騎馬兵のいる)≫は、小さな画面に切り立つ崖がいっぱいに描かれ、荒涼な風景画かと思いきや、下部に小さく描かれた騎馬隊が、物語性を強調する。

O_Redon_5 木炭で描かれる≪樹(樹のある風景の中の二人の人物)≫や≪曲がりくねった樹≫は、ルドンのロマン主義的な傾向を感じさせ、森からさまよい出てきたような≪骸骨≫や刺のある枝を伸ばすアーチ型に開かれた空間に佇む俯いた(どうやら)女性を描く≪悲嘆≫は、死と絶望を形象化したようであり、鳥の飛ぶ沼地に咲いた巨大な人頭の植物≪沼の花≫や、電球の形態を持つ気球の中に光りを発する人間の横顔を浮かび上がらせた≪気球≫は、版画に現れる幻想性を先取りしている。

 そして今回最も印象的だったのが、黒鉛で描かれた繊細な二枚の作品、≪守護天使≫と≪永遠を前にした男≫だ。
 何もない風景の中、岩場で天使に介抱されているように見える男の姿を描く≪守護天使≫は、解説によるとフラ・バルトロメオの死せるキリストを描いた素描に拠っているという。確かにやや硬めのフォルムながらバランスのよい男の肢体は、ルネサンスを感じさせるが、男の横顔はルドンの特徴である鼻の筋がくぼまずにまっすぐに描かれたもので、彼の作品がまとう聖性と抒情性の萌芽を持っている。小さなデッサン、しかも鉛筆だけで描かれているのに、その深淵な空気に思わず足が止まる。

 その隣にあった≪永遠を前にした男≫もまた、山の頂上のような岩場で、まだ二足歩行もままならないのではないかと思われる原始的な裸体の男が、岩場に手をついてじっと空を見つめている一枚。巨大な雲が迫ってくるとっかかりのない空間にすくんだように静止しているこの動物とも人間とも取れる生命の存在が、タイトルと合わさった時、雄大な自然と対峙する人間の初めての自我を現わしているように思われ、その深い思索性に魅せられる。
 いずれも画像がないのが残念な忘れられない作品だ。

O_Redon_6 いまひとつリトグラフの≪読書する人≫は、窓からの光の中、大きな背もたれのあるソファに深く腰掛けて本を読む白髭の老人が描かれる。珍しく奇妙な世界とは異なり、光の効果を意図した(ある意味では)現実的な人物像は、それゆえの象徴性を以って非常に重厚な一枚となっている。

 この辺りから、彼の影を強調した作品は、「光」を描く方へとシフトしていく。それと同時に、描かれる対象も美しい女性の横顔や、聖なる対象が多く見られるようになり、やがてそこに色彩が現われる。

 気品ある美しい女性の横顔が、そのまま光を発しているような≪光の横顔≫、やさしい女性の表情が、聖性よりも日常的な愛や温かさを持つようになった≪窓辺の女≫、暗い大きな宮殿の室内から、光あふれる外に現れた巨大な思索する男の貌を描く、まさにタイトル自体にその転換を感じさせる≪光≫など、黒を極めたルドンだからこその黒による光の浮上と、描く対象の変化を感じさせて興味深い。

 そして、≪ベアトリーチェ≫や≪シュラミの女≫に観られるように、初めは多色石版によっておずおずと、そしてそこから一気に色彩の世界が開花していく。

 第2部 色彩のルドン
 まるでこれまでの無彩色の作品から、喪失していたものを取り返すかのように後年のルドンは、パステルを中心に、豊かな色彩の世界を展開する。話題の当美術館が所蔵した≪グラン・ブーケ≫を含めて、あでやかな色の氾濫の世界へ。
 そしてこうしたカラフルな作品は、より神秘なものや幻想性をまとうようになる。

 まずは油彩作品。(ここで挙げる一部は、なぜか(?)最後に特設ショップの後の小部屋に展示されていた…;ちょっと違和感)
 制作年代は不明なものが多いながら風景画も展示されている。それらは、彼の身近な景色を描いたらしく、ずっと手元に置いていたという。緑がかったブルーやイエロー、ピンクが配され、後のパステルいおける独特の色彩感覚をうかがわせるが、どこか人間の存在を感じさせない寂寥を持っている。
 ≪薔薇色の岩≫は、そのタイトル通り荒涼とした中に薔薇色の岩が描かれており、1章で観た≪守護天使≫の岩場を彷彿とさせる。

O_Redon_13
 そこから人類最初の殺人現場を描いた≪カインとアベル≫、油彩でも水彩でも多く描かれている≪アポロンの戦車≫やほとんど抽象絵画かと思えるほどに、塗られた絵具の中に、燃えながら墜落していく戦車が浮かび上がる≪ファエトンの墜落≫(これは大好きな作品)などの神話的モチーフから、象徴主義・神秘主義として捉えられる作品たちへ、その色彩と浮遊するような不思議な空間性を持った作品たちが生み出されていく。

O_Redon_7 空に浮かぶ古代神殿を思わせる柱の建つ空間で、頭をたれている若い女性とヴェールをかぶった年配の女性が描かれた≪神秘的な会話≫。床には色とりどりの花が散りばめられ、青とピンク~肌色の色層の中で、若い女性が持つ赤い花の枝が画面を引き締める。羽目を外してはしゃいでいた彼女がその母にたしなめられているような二人の姿は、しかしそのタイトルから神秘思想を視覚化したものと知れる。

O_Redon_8 妻カミーユを描いたといわれる≪瞳をとじて≫は、リトグラフでも制作されているモチーフ。版画のそれは水平線(地平線)に出現した女性の瞳を閉じた頭部が描かれ、彼女の死との関連性で語られることが多く聖性を強く感じさせるが、油彩のものは、花と画面右下から左上へと流れる曲線によって装飾的な印象を与え、瞑想的なそれでいて抒情的なハーモニーを奏でている。

 その狂気と溺死を象徴するように、紫と緑と黒で滲むように描かれた≪オフィーリア≫、愛妻を失った悲しみのために無視したバッカスの巫女たちの怒りに触れて八つ裂きにされたオルフェウスの神話から、その首だけを彼が得意としていた竪琴に乗せて、植物の茂る水辺に漂着させた≪オルフェウスの死≫(これまた大好き)など、物語を詩的に、音楽的に描きだした、美しい作品たちにため息。

O_Redon_9 パステルの作品では、こちらもめずらしく装飾や象徴的なモチーフを一切置かず、灰色の背景の中に凛とした美しい女性の肖像を描いた≪ポール・ゴビヤールの肖像≫が、彼のデッサンの確かさを改めて感じさせ、なおかつみごとな完成度でうっとりさせる。

 後年のカラフルなルドン作品ではこうした女性肖像画によいものが多いのだが、それともうひとつ、独特の幻想的な雰囲気をまとい、静物画なのに非現実的なニュアンスで魅了するのが、「花」である。

O_Redon_12 今回は、点数が少なかったのがちょっと残念だが、≪青い花瓶の花々≫(青い花瓶の色彩と生けられた花たちのオレンジ、赤、青、黄色、白、そして黒が、絶妙なリズムで配されていて渋いのに華やか)、≪黒い花瓶のアネモネ≫(先の一作とは対象的な、図案化されたかっちりしたデザイン、ただ周りを囲む紫と、その中の背景の黄色、アネモネの赤、白、黒が、それぞれに対立する色なのに、なぜか美しいハーモニーとなっているのがお気に入り)から、いよいよお披露目の≪グラン・ブーケ≫へ。

O_Redon_10 繊細なパステルの作品であり、しかも巨大とあっては、おそらくは保存上の関係でガラスケースの設置や照明の問題など、色々制約があったことと思いながらも、この部屋に入った第一印象は、「狭い…」。
 大きな作品なので、ある程度引きでもみたいのに、下がるスペースがない。できればこれは上階のこの美術館で最も広い部屋で観たかった…。

 こちらも青い花瓶に咲き誇る色とりどりの花たち。上部に大きく一本のヒマワリか、それを起点に右側には暖色系の色彩を下方へ流し、左側は寒色系の色彩を上方でまとめている。その間に散りばめられた青い花が、花瓶の青を繰り返し、全体のトーンを整えている。

 しかし…。
 美しいことは否定しないが、あまりに大ぶり過ぎて、いまひとつ感慨がわかない…。

 この作品はそもそもパトロンのひとりであったドムシー男爵の食堂の装飾画として描かれたものだという。確かに、西洋建築の食堂にこの「大きな花束」が飾られていたら、それはさぞかし華やかで、かつ豪華で美しかったことだろう。 
 やはりその場所のために描かれたものだな、と強く感じる。正直なところ、小さな個室に、ガラスの中で、スポットライトを浴びて展示される作品ではないかも。(まあ無理な望みなのだけれど)
 
 うーん、個人的には彼のパステル画は小品の方がよいかな、と。つい部屋を出て、先の「花」の小品2作の前に戻ってしまった。
 ただ、ほんとうに何もかもが大きく描かれているので、ルドンの色彩マジックを覗きこまずに観ることができるのは収穫といえる。
 
O_Redon_11 このほかパステルでは、非常に象徴的で抽象的な空間に浮かび上がる古代ギリシアの怪物を描く≪翼のある横向きの胸像(スフィンクス)≫が来ている。よく見ると背後にはギリシャ神殿の柱のシルエットも描かれており、黒い木炭で描かれた太い線の連なりで表された羽と、女性の横顔の周りに配された黄色~赤が鮮やかな対比を作り、幻想性を強めている秀作だ。

 彼の色彩画を見るたびに思うのが、この「黒」の効果的な挿入である。黒を自在に彩色できたルドンだからこそ、色彩をより豊かにするための黒が活かされているのだ。

 今回のメインを味わったところで、次章では周辺の作家をいくつかの切り口で見せていく。

 さて、すっかりだらだらと続けてしまったので、ひと先ずここまで。
 続きは次回で…(汗)
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