FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

めくるめくピースが描く“生”の「ものがたり」 ―『緑の家』―

『緑の家 上・下』 M・バルガス=リョサ  木村 榮一 訳(岩波文庫)

 
 しばらくご無沙汰の読書感、実はどうこのふるえを表現してよいか分からなくて…。まだことばは見つかっていないのだけれど。

 『楽園への道』で大きな感動をくれたリョサ。
 ノーベル賞受賞のおかげで多くの作品が新装版で刊行され嬉しい悲鳴。目につくたびに入手しながら、ついつい後回しに…。
 さすがに積読にも限界と、今年は購入の前に(もろもろ)消化を目標に、まず手近にあったこの文庫から。

 南米の砂漠の町と、アマゾンの密林およびその河口に開いた町を舞台に、そこに入植して現地人を搾取する白人と、現地のペルー人の人々、ジャングルの未開人たちの、愛と闘いと信仰をテーマにした“生きる”ことの交響詩。

 40年ほどの時代の変遷の中で描かれるのは、アマゾンの奥地から無理やりに連れてこられ、西洋近代のキリスト教と生活を強要される少女ボシファニア、砂漠の町へと流れつき、かつてそこに娼館「緑の家」を建てた名ハープ弾きのアンセルモ、現地の未開人たちを手なずけて、白人たちをだまし、裏切り、密貿易で大金を得ることを夢見る謎の日本人フーシアと彼にきつく当たられながらも離れられない白人女ラリータ、密林の船頭を生業としてフーシアの友として彼らを静かに穏やかに見つめていくアキリーノ、町に住む政治家で、その地域のボスとして貿易も治安も牛耳っているフリオ・レアテギ、彼に反抗して仲買人を通さずに貿易をしようとして痛めつけられながらも名誉のために何度も挑んでいくインディオのフム、若い時には徒党を組んで飲んだくれていた治安警備隊の軍曹で、やがて任務で知り合ったボシファニファと結婚したリトゥーマを主軸にした南米の僻地に根を下ろした人々の「生きざま」だ。

 そこに、修道院のシスターや、町の教会の神父、養父母と共に盗賊に襲われて九死に一生を得たものの目も見えず口もきけなくなった孤児少女アントニアや治安警備隊のメンバー、リトゥーマの仲間たちが絡みながら、各々のストーリーが相互に関連していくある意味での群像劇。

 相変わらずその記述の仕方へのこだわりは半端なく、彼らの人生がそれぞれに細切れに断片化され、なおかつ時間の流れを無視してバラバラに配され、さらには語る主体が入り混じり、客観的な描写と主体の独白までが織り交ぜられている。
 このため、初めは本当にとっつきにくく、(ただでさえ登場人物が多い上に名前もしばしば愛称になったりして)物語の筋を追うのが困難だったのに、ジグソーパズルのピースが嵌り、少ずつその全体が見えてくるような面白さに変わり、いつのまにかザラザラした砂の吹きすさぶ砂漠の町に、あらゆる生命と重たいくらいの湿気にまとわりつかれる密林の奥地に、階級差と西洋の傲慢を感じさせる近代化されつつある町に誘われ、読み終われば呆然とするようなたくさんの人生のうねりに飲みこまれていた。

 改宗・教育を目的にアマゾンから子供たちをまさに「拉致」してくる教会の“理想”は、結局は中途半端で、修道院を出た少女たちの末は、裕福な家の召使いか、娼婦の道しかない皮肉と無責任、町の娼館は、敬虔な町の人々によって激しく糾弾されながらも男たちの欲望を満たし、生きていくすべのない女たちを養う現実、インディオを欺瞞と暴力で搾取する白人たちと、彼らに反発しながらも新たな“貿易”に目覚めていくインディオたちとの近代化の波が生む争いの痛ましさ、生まれや育ちが異なる男女の愛憎の切なさと深淵、何よりも圧倒的な自然の中、あくせくと足掻く人間の、哀しいまでの小ささとたくましさ。
 
 卑近でありながら壮大で、残酷でやさしくて、そしてきたなくて美しい。
 さまざまな痛いほどの絶望と悲哀とともに描かれる怒りと赦し、死にゆくことの重さと軽さ、そして“生きる”ことのしたたかなまでの力強さと滑稽、と希望。
 あらゆる欲望と混沌を飲みこんで、密林は繁茂し、砂漠は積もり、人はそこに在り、消えていき、かつ残っていく…。砂漠に建てられた「“緑”の家」のごとく。

 鳥肌が立つほどの戦慄。

 解説によれば、これらは実在した人物や出来事から着想して構想されたものだという。
 語ることをここまで意識し、語り方をここまで造りこみ、その構成を明らかにしてなお、それを凌駕する大きな“ものがたり”に仕上げてしまう彼の手腕は、まさに桁違いの錬金術だ。
 “ものがたり”ゆえにリアルと強さが輝きだす。
 
 この作品を日本語にしてくれた、さらには翻訳でもその構成の妙を伝えてくれた訳者にやっぱり心から感謝。
 はやくも今年いちばんの作品(笑)。



スポンサーサイト

テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

chat_noir

Author:chat_noir
FC2ブログへようこそ!

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
カテゴリ
月別アーカイブ
カレンダー
11 | 2018/12 | 01
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
タイム
検索フォーム


リンク
アクセスランキング
参加しています。よろしかったら投票お願いします。。




人気ブログランキングへ

ブログランキング・にほんブログ村へ
RSSリンクの表示
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。