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偶然と意図との幸福な融合にゾクゾク ―『マックス・エルンスト フィギュア×スケープ展』

『マックス・エルンスト フィギュア×スケープ展 時代を超える像景』 (横浜美術館)

Ernst_Figure_Scapeチラシ
 この前の展覧会もいまだまとめてられていないのだが(汗)、とてもよい作品に逢えるので、これくらいは開催中に(ってあとわずかだけれど…)。
 ※エルンストはまだ著作権が厳しいらしく、個人のちっぽけなブログながら今回画像は載せないことにしました…とっても残念ですがチラシでご容赦ください

 海外からの日本初公開のものを含めて、「フィギュア(像)」と「スケープ(景)」を切り口に、エルンストを観ようと試みた展覧会。
 鳥や女、マネキンや不思議な顔などが、時に愛らしく、ときに不気味に描かれ、フロッタージュやグラッタージュによって生み出された偶然性を持つ文様が森や海に変容していく彼の作品を、「フィギュア×スケープ」はどのように解釈していくのか、タイトルだけでも楽しみにしていたもの。

 そのテーマに沿って、年代を追いながら3つの章をさらに小タイトルで分けつつ、版画、コラージュ、油彩、彫刻など、多様な作品を集めている。

 「フィギュア」をキーワードに時系列を3章に分けた構成。
 世界的に有名な画家の個展としては130点は決して多くはないが、疲れない規模で、多様なエルンストの表現を観られる細やかな内容になっている。
 
 第一章 フィギュアの誕生1919-1927
 第一次大戦から従軍から帰還したエルンストが、その戦争の悲惨と生命の軽視を痛感した若者たちによって起こされたダダの活動にいち早く参画した時期のコラージュや版画に見出されるモチーフから「フィギュア」の誕生を見出し、さらには多様な技法とともに油彩へも拡げられていくさまを観る。

 リトグラフ『流行は栄えよ、芸術は滅びるとも』は表紙を含めた9葉すべてが並べられ、表情も肉体の柔らかさも失ったマネキンが、キリコを思わせる幾何学的な風景の中に配置され、不思議な空間の中にシニカルに、ユーモラスに、そしてどことなくエロティックに描かれている。
 アイロニカルなタイトルと共にそれらの数学的な線を追っていくのは、そこに何が描かれているのか、というよりも、その画を観ている私たちの脳に伝わる刺激が楽しい作業となる。

 コラージュ作品からは、彼の生涯を通じてのモチーフとなる「鳥」が現われる2点。
 横浜美術館の所蔵である『白鳥はとてもおだやか…』と、今回の目玉のひとつである『聖対話』。
 『聖対話』は、厳密にはコラージュではなく、現在は失われているコラージュ作品を写真にしたものであるが、世界に3点見つかっていたものの、これは4点目として近年に発見されたものだそうだ。
 女性の解剖のための人体模型の写真に鳥や扇を配したこの奇妙で小さな作品は、ナチスドイツの退廃芸術展に展示され現在は失われてしまった≪美しき女庭師≫の油彩へとつながり、さらには戦後の作品≪美しき女庭師の帰還≫へと変容して現れる。今回の展示ではこの≪帰還≫が最終章で展示されていることも見どころのひとつ。 

 油彩では当館所蔵の≪毛皮のマント≫をはじめとして、国内の美術館から≪偶像≫(大阪市立近代)、≪子供、馬そして蛇≫(豊田市美)、≪怒れる人々(訴え)≫(京都国立)が、さまざまな手法を組み合わせ、それぞれに多様な質感とイメージを持つ世界を拡げている。観慣れたつもりの≪毛皮のマント≫も、常設展示で逢うのとはまた異なる印象を与えて新鮮。

 第二章 採掘された「フィギュアスケープ」1925-1952
 ここでは両大戦間のフランス、そしてアメリカに亡命した頃に作成されたものが観られる。一章が対象としての“フィギュア”そのものの表出とするならば、二章は描かれた世界に現れてくる“フィギュア”を見つけ出すことがテーマとなっているようだ。
 テーマはともかく、ここからはもう楽しくてしょうがない世界が続く。

 まず嬉しいのは≪博物誌≫の版画が展示替えを含めて全葉観られたこと。フロッタージュの組み合わせによって、多様な像や風景が浮かび上がったこの版画は、そのタイトルとともに豊饒なイメージを喚起してくれる。
 それはエルンストが生涯追い続けた無意識と意識との幸せな共存を分かりやすく伝えてくれる。フロッタージュによって浮き出る板の目や葉脈の文様は、彼の美意識によって組み合わされ、さらに彼の頭に浮かんだ「ことば」を付与されて、魅力あふれる世界に変容する。
 美しい色彩にあふれた油彩作品にも活かされていくのはもちろんながら、偶然性と作為との微妙なバランスがもたらす魔法のような結合が、シンプルな鉛筆の跡を感じさせる濃淡に鮮明に感じられる。
 魔術師に憧れていたというエルンストの、まさに錬金術の基本を提示された思いだ。

 この高まりのままふり向けば、そこにはフロッタージュの森に描かれる「鳥」と「太陽」のシリーズが並ぶ。
 ≪期待≫、そして≪自由の賞賛≫では、深い森の底にある柵のこちら側に白い鳥が留まっている。飛んで行こうと思えばいつでも飛べる状態にありながら、それでも籠のそばに佇む鳥の姿は、そのタイトルと出逢ったときに、“期待”や“自由”の持つ意味を深々と伝えてくる。またこの鳥たちがなんともかわいい表情だから、なお愛おしくなる作品だ。

 そして≪森≫、≪石化した森≫のシリーズ。今回は、岡崎市美と国立西洋、鹿児島市美、富山県立近代などから5点。
 いずれも、今年日本中を楽しませてくれた金環蝕を思わせるリング型の太陽が、暗い森にかかっている、大好きな連作たち。
 欲を言えばここに川村と国立近代のそれも並べて観たかったな、と。これだけでもかなりの迫力、きっと壮観だったろうに。

 暗い森を抜けると一転、そこにはカラフルなグラッタージュによる風景がハッとさせる。特に≪風景(貝の花)≫や≪海と太陽≫は、白い表面の下から浮かび上がる色層が美しく、思わずため息が出る。

 ここではまた、エルンストが「コラージュ・ロマン」と呼んだ挿絵本の代表作からのコラージュ作品が、書籍そのもの、版画、さらに原画で展示されている。『百頭女』、『カルメル修道会に入ろうとした少女の夢』、『慈善週間または七大元素』の、河出文庫からも刊行されたメジャーなものたちは、しばらく離れていたコラージュ作品として再開されたものだそうで、19世紀のさまざまな大衆紙からのイメージを切り抜いたものが組み合わせれ、あるものは滑稽に、あるものは残酷に、あるものはエロティックに、既存イメージの持つ軽薄さや軽やかさと同時にどこかしら意味深な空気をまとって、私たちを物語の奇妙な世界へと誘う。

 さらにはマン・レイによりコラージュ作品の黒白を反転させ、より幻想的な雰囲気を持つ『ナイフ氏とフォーク嬢』は、どこか魔術的なまがまがしさとエロスを湛え、そのダダ的なふざけたタイトルとともに想像力を掻き立てる。
 これらもまた展示替えでかなりの点数を観ることができた。

 ツァラの『反頭脳』の挿絵も、小品ながら赤や緑、青やピンクといった8点のカラフルなアクアチントに、エッチングで描かれた線画が、いろいろな「顔」を作っていてかわいい。

 第三章 フィギュアの再訪1950-1975
 大戦後、避難していたアメリカから改めてフランスに戻ったエルンストの晩年の作品を中心に、彫刻までを含めた彼の造形に“フィギュア”を観ていく章。
 横浜美術館の展示では、スペースの関係か、二章と三章の作品が入り混じっていたので、どうも章のテーマに沿って観ることはなかったのだが、とにかくすばらしい作品たちに出逢えて、すっかり舞い上がる。

 出迎えてくれたのは、彫刻作品≪バスティーユの精霊≫。3m以上のひょろりと細長く、凹凸のある柱のてっぺんに翼を広げた鳥(?)がパカーッと眼と口を開いている。なんとも楽しくてキュートで、すっかり一目ぼれ。置くことが叶うなら(笑)持って帰りたい作品だ。

 ウキウキした気分で部屋に入ると、ルートヴィヒ美術館所蔵の≪パリの春≫に再会。窓か額縁を思わせる矩形のある部屋に描かれた4つの顔(仮面)。どこか陰鬱な感じを残しながらも、ユーモラスな表情をしたそれらの組み合わせは、描かれた1950年という年代を考えた時、激動の時代に生きた彼の絵画に込めたもうひとつの思いを改めて感じさせてくれる。

 ここからは油彩の上品が並ぶ。
 真っ赤な人物の頭部を描いたのかと思いきや、その表情を作っている顔の要素は、キスする2羽の鳥になっているステキな≪鳩のように≫、青から灰、黒を基調に、フロッタージュが重なり合って廃墟のような、城のような風景の中に浮かび上がるのは白馬(騎手)のシルエットとその肩に止まる鳥が美しく、一枚にして繊細で優雅、勇壮で悲劇に富む騎士物語を紡いでいるかのような≪ポーランドの騎手≫。この作品、よく見れば白い馬(か騎手?)の体の部分には、これまた接吻する鳥の姿が…!(かわいい!)

 その隣には当館所蔵の湖の周りに繁茂する苔のような植物の群れがいろいろな動物になっていて、まるで判じ物のような≪少女が見た湖の夢≫がある。

 ここまで、眼に見える世界と眼に見えない世界とをひとつの作品にまとめ上げていったエルンストを強く感じてきた状態でこの作品と再会した時、そこに描かれる像としての“フィギュア”と、描かれている世界としての“スケープ”の分かちがたい一体化をこれほどみごとに表していたのだな、と目から鱗のような思いだった。

 さらに≪ニンフ・エコー≫では、ルソーを思わせるような熱帯の植物の中に、同色の緑で隠れている鳥が描かれる。これもその森の世界はフロッタージュやデカルコマニーで作られている。木の生える崖を遠景で描いたように見える、色彩の美しい≪風景≫も、デカルコマニーだ。

 暗い地底に光る鉱物の輝きを放っているかのような赤い結晶の集積が浮かび上がり、逆三角形の頭部を持つ人体像をあらわにしていく≪大アルベルトゥス≫は、彼が尊敬していた錬金術師の像とのこと。まったく異なる筆致ながらベーコンの肖像画を思い出させたこの作品は、どことなく厳粛な空気を放っている。
 チラシになっている≪ユークリッド≫も、印刷画像ではなんとなく敷居が高いような、小難しい印象が残るが、作品は軽やかで楽しく、もっと魅力的だ。

 そして思わず「キャー」と(小さい)悲鳴を上げてしまったのが、今回初来日だという巨大作品≪嘘八百≫!!
 緑の木漏れ日か、水面の陽の光のような切子状の画面に、鮮やかに浮かぶオレンジの球体(私は果物のオレンジかと思った…笑)。その中に線画で浮かび上がるのは、奇妙な格好や表情をした人体らしきものや、魚のようなもの、鳥のようなものたちなどの動物だ。
 学芸員さんの話によると、所蔵先のポンピドゥでは、子供たちが走りよって触れそうになるため、ギャラリートークなどの時には別の苦労があるとか。確かに子供でなくとも、思わず抱きしめたくなる(って大きいけど;笑)絶品だ。
 もうすでにハイテンションで廻ってはいたものの、この1点に出逢うだけでも来館の価値はある。ほんとうにいつまででも前に佇んでいられる、というか絵の前で飛び跳ねたくなる、自然に笑顔になってしまう、明るくて楽しくて、幸せな作品。

 今回、実はこれ以外にも日本初公開があり、先の≪大アルベルトゥス≫、さらには二つの火山のイメージを描いた≪ふたつの基本方位≫もだとのこと(3つは並んで展示されている)。
 (もっと宣伝すればよかったのに…ポスターも≪嘘八百≫にすればよかったのに…、と)
 
 もうひとつの横浜美術館所蔵品≪子供のミネルヴァ≫も、いつもそのあっけらかんとした表情に思わず笑みがこぼれる作品だが、ここに並ぶとよりその切子細工のような画面の造りの繊細さと楽しげな雰囲気が活きてくる。

 彫刻は、かつて大丸美術館(改装前)で出逢ったユーモラスなものたちと再会、そして相変わらず持って帰りたいチェスの駒≪クィーン、ビショップ、ナイト≫にへばりつき、その後いくつかの版画作品やコラージュがならび(これらもまた造形、色彩ともにかなりみごたえ充分だが、きりがないので割愛;タイポグラフィーの創作のような版画集『マクシミリアーナ、あるいは天文学の非合法的行使』が、エジプトの象形文字のような造形と文字の配列の絶妙なバランスでまた違った作風を堪能できる)、いくつかの鳥のモチーフ作品を味わい、最後のコーナーへ。

 鉄の鋲や木のはしご状のものをつけたミクストメディアの≪偉大なる無知の人≫、エルンストにとって魔術師としての制作の生涯とともにもうひとつの生き方としてのダダ、政治的、歴史的な美術の持つ力への思いであり、そしてこの展覧会のもうひとつのテーマであるのだろう円環としての作品≪美しき女庭師の帰還≫、圧倒的な色彩とテクスチャーの美しい融合を果たした≪最後の森≫で締めくくられる。

 燃焼しきった満足感で出口に向かうと、ユーサフ・カーシュの撮ったエルンストの肖像写真がポツリ。
 自作の彫刻に頬をつけてこちらを見つめる晩年の彼は、若き日の美貌を思わせる端正さを失わず、強い光の瞳が印象的だ。

 ある作品ではより作為を感じさせ、ある作品では偶然性が微妙な組み合わせとして成立したようにも見える、創作としての両者のバランスが自在に、軽やかに譲り合い、拮抗しつつ、融合して飛翔していく。ちょっとずるいな、と思えるほどに理知的でありながら自然で、美しく、妖しく、そして楽しくて愛おしい。

 正直なところ、コンセプトとしての「フィギュア×スケープ」の試みの美術館側の解釈は、残念ながら私にはあまり伝わってこなかった…。“フィギュア”の定義がよく分からなかった(単なる「像」の直訳としか感じなかったせいか?)のと、スケープの捉え方が「×」で“フィギュア”と結びついているように受け取れなかったため。
 シンプルに経年で追うエルンスト展でよかったかも。あるいは≪女庭師≫の円環を強めた主題でも(展示内容が変わってしまうかもしれないが…)。

 とはいえ、展示されている作品は、油彩、版画、書籍、彫刻、いずれをとってもエルンストというアーティストの魅力を存分に伝えてくれる。

 まあ勝手に「フィギュア×スケープ」で期待を高めすぎたせいかもしれない。ただその意識を持っていたおかげで、エルンストの作品にいつもより近づいて自分なりの解釈と鑑賞ができた点では感謝だ。

 あまりにも楽しくて珍しく展示替えにも再訪した展覧会。
 まもなく終了だけれど、ちょっと逃すには惜しい内容だ。巡回もあるらしいので、機会があればぜひ。
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テーマ : 絵画・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

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