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美しくて残酷、繊細で壮大な“夜の”ファンタジー ―『夜の写本師』/『魔道師の月』―

『夜の写本師』
『魔道師の月』 乾石 智子 (東京創元社)



 なかなかに骨太なファンタジーに出逢えてご機嫌♪
 飾っておきたいくらい繊細なカバーイラストと美しいタイトル。
 各冊でも十分にいちコラムとして語れるが、一応シリーズとなっているので一緒に。

 中東からヨーロッパを思わせる、いまだキリスト教の誕生も普及もなく、人々が「自然」と「言葉」と「思い」に宿る力を信じ、魔術とともに生活していた世界。

 右手に月石、左手に黒曜石、口に真珠を携えて生まれたカリュドウ。その不思議な出生のため、魔女であったエイリャに育てられるが、自身には魔道師としての才能がなく、共に育った魔道師候補の少女フィンを守る役割を受け入れるも、女の魔道師の存在を許さない国家最高権力者とである大魔道師アンジストにより二人を目の前で惨殺される。
 独り残されたカリュドウはアンジストへの復讐を決意、他の魔道師を殺害してはその能力を己のものとして強力になっていったこの大魔術師に勝つために、魔法とは異なる力を得るべく、街を出て“夜の写本師”としての修業を積む旅に出ることになる。
 ここからカリュドウの運命は、さすらう土地だけでなく、数千年の時空を超え、3つの石に込められた深い悲しみと憎しみと恨みの記憶を体験する大きな宿命を負っていく。
 月の巫女、闇の魔女、海の娘、彼女たちの生涯を追体験していく彼の中で、その身に抱えた傷と痛みが飽和した時、“夜の写本師”は完成し、アンジストとの最後の戦いの時が訪れる…。――『夜の写本師』

 他国を平定し繁栄を謳歌する巨大なコンスル帝国。あるとき征服地から皇帝に献上された幸運のお守りだという黒い物体「暗樹」。皆が感嘆している中、皇帝お気に入りのお抱えで大地の魔道師であったレイサンダーは、ただひとりその物体の持つ形容のしようのない太古の禍々しい空気を感じ取り、その瞬間恐ろしい囁きを聞いて、怖れのあまり「暗樹」を捨てて国から逃亡してしまう。魔道師でありながら、自らの裡に闇を抱えていない稀有な存在であったために、自身の魔法能力に限界を感じていた彼の逃亡と模索の日々が始まる。
 一方、大切な少女を守りきれなかったことを悔やみながら、自棄になって大切な書物を燃やしてしまった書物の魔術師キアルス。喪った書物の復刊を目指し、世界の果てまで旅をすることになる。
 このふたりの魔道師が、太古の悪意「暗樹」をめぐり、400年前の死闘によってこの悪意を封じ込めた青年の運命を共有した時、コンスル帝国は、なぜか舞い戻っていた「暗樹」の悪意に蝕まれつつあった。遅きに失したかもしれない今、レイサンダーとキアルスは、この太古の闇を封じることが叶うのか…?――『魔道師の月』

 壮大で、残酷で、美しくて悲しい「物語(テイル)」だ。
 その構成は緻密で、その世界は繊細で、その展開は大胆。時間を大きく飛躍しながらも、それぞれがきちんと結びついて、クライマックスに集約していくお手並みはあざやかだ。(まあ一作目はこちらが予期していないこともありながら、場面転換の入り方が少々手馴れておらず、やや唐突な印象で一瞬戸惑うけれど)
 表現は鉱物や植物の鮮やかな色彩と、魔法の準備や写本制作といった素朴な質感と丁寧な手作業の温度を以って織り上げられていく。

 『魔道師の月』の登場人物は、第1作『夜の写本師』で、カリュドウを助ける老練の魔道師の若き日の姿となっており、時を遡ってつながる造りになっている。
 とはいえ、2作目から読んでも充分に独立した物語として楽しめる各々の完成度だ。(キアルスの悲哀は、順番通りに読んだ方がより伝わるものの)

 “魔術師”ではなく“魔道師”としていること、その文字が導く「陰」のイメージが、己の中に「闇」を持ちながらそれを制御できてこそ一流の魔法使いたりえるという、説得力のある設定にとてもマッチしている。
 人間の欲望や願いを実現させることを生業とする以上、魔法は、呪いや復讐といった昏い目的に使用されることは避けられない。その善悪の判断を超えたところに自らを置ける、それこそが魔道師としての資質である、という定義がよい。

 また“魔法もの”の物語として、魔法に対抗しうるただひとつの手法に“写本師”を設定した視点が素晴らしい。
 「言霊」としての力、書かれることによって効力を発揮する“文字”を、闇の力として身につける「夜の写本師」。この存在と名称に魅せられる。
 写本師としての修業の風景が、羊皮紙のなめしから、文字に使用するインクの選定、製本の過程まで細やかに描かれていて、本好きにはそれだけでもわくわくできる。

 それぞれの魔道師が持つ魔法の特徴や手法、その手順も、石を使うもの、人形をつかうもの、本をつかうもの、血をつかうもの、動物をつかうもの、生贄を求めるもの、と、世界各地に存在していた呪術を敷衍しつつ、丁寧に描かれていることが、この魔法に拠って生きる世界により奥行を与えている。

 しかし、魔法を使っても、時を超えて生き続けても、失ったものは戻らない。
 この喪失の痛みにつながる要素の切り(捨て)方が潔く、中途半端な甘さを残していないことが、物語を残酷で切なく、切実で重たい、そして同時にどこか乾いた大人のファンタジーに仕立てた。

 まあ『夜の写本師』の方では、最後に対決する大魔道師アンジストの生い立ちが自身の母子関係に集約されるのは、ありがちな予定調和ともいえなくもないが、カリュドウが時を超えての3人の女性の生きざまを追体験する(本当の母を知らず、男として生まれながら女たちの生をなぞる)ことと、ある意味表裏をなしているとも読めるか。(写本師としての修行を含め、あまりに彼の経験が印象的なので、アンジストの最後がちょっと物足りないのかもしれない…)

 そして『魔道師の月』における、「暗樹」の在り方がなによりもよい。
 太古の、発生も定かではない、ただそこに在る絶対的な「悪」。
 石のようで、木のようで、見える人間にはそこに顔が現れる、理由も根拠もなく禍々しいもの。
 人の心の闇にするりと入り込み、その欲望を満たすようでいて、不幸に、狂気に、悪に落としていくもの。
 対峙しても決定的に滅ぼすことができず、封印がやっとの、人智を、自然をすらを超えた「悪意」。

 魔道師が、己の中に闇を抱えることで完成されていく、闇を知るゆえにこそ闘いの力となっていくという物語を支えるダークな要素すら、所詮は人間の世界に留まっているちっぽけなものでしかない、としてしまう、この超越した悪意の対置はすばらしい。
 魔道師に対抗しうる存在として写本師を置いたように、太古の「悪意」に対し、闇を抱えない(ことを自らは悩む)魔道師レイサンダーの意味が大きくなってくる。単に“無垢”や“純粋”な設定でないところが登場人物にリアリティを付与してキャラクターを光らせる。

 宿命と選択、運命と意志、不可抗力なことと自ら決断することがみごとな融合を果たした“夜の”ファンタジー。
 静かに語られながら、悠久の時を飛び、激しい感情と密やかな情熱に触れられる、繊細であると同時に大胆な「テイル」にひととき酩酊した。



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テーマ : 読書記録
ジャンル : 小説・文学

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