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ホラーが導くリアル世界の痛みと不安 ―『ふちなしのかがみ』―

『ふちなしのかがみ』 辻村 深月 (角川文庫)


 梅雨明けはまだだけれど、夏向け(?)ホラー作品を。

 辻村氏で「ホラー小説」とはやや意外な感じだが、他の作品でもその要素が通底している印象はある(それほど読んでいないけれど;汗)。
 このところ、文庫化発売されるものも多い彼の作品の中から。

 「トイレの花子さん」をはじめとして、都市伝説を織り込んだ幻想恐怖譚といえそうな5話。

     トイレならぬ階段の踊り場に現れる花子さん。
     彼女に出遭ってしまったら、難を逃れるためのルールがある…。
     クラスでいじめられていたひとりの少女が花子さんと話をした。
     その夏休み、宿直で来ていた教師は、忘れ物をしたという後輩
     実習生の訪問を受け、見回りを兼ねてその忘れ物を取りに行く
     のだが――。
 “学校の怪談”に教師という大人が踏み込んだとき、ミステリ的な謎の解明と妖しが交差する「踊り場の花子さん」

     ブランコを漕ぎすぎて転落死した少女。
     クラスでも人気者として華やかに存在していたグループに入れて
     もらった彼女たちが行っていたのは、コックリさんの派生「エン
     ジェルさん」。クラスメイトや幼稚園の時の仲良しのコメントが
     造形する少女の姿と各々が抱えていた想いから見えるものは――。
 「藪の中」の手法で、どのグループに属するかで明暗が分かれる子どもたちの“社会制度”とその臨界点を、揺れるブランコの不安感に託す「ブランコをこぐ足」

     過疎化の進む寒村に住む祖母の認知症の悪化から、その家の掃除
     をすることになった孫娘が体験するおぞましく恐ろしい死体処理。
     訪れるたびに湧き出る死体を、父母も手伝いに来た彼女の元彼も、
     まるで大型ゴミを処理するかのように淡々と片づけていく。
     そこへ郵便配達人が来て、まだ処理できていない死体を見つけて
     しまった――。
 都会を離れた非日常的空間としての田舎、原因不明の死体の山、ありえない処理とそのことを忘れていく父母、姿が描かれない祖父母、成人を迎えた主人公の通過儀礼とも、パラレルワールドとも、彼女の見た白日夢ともいえそうなシュールさと、それでいて奇妙にくっきりした輪郭の現実感を持つ「おとうさん、したいがあるよ」

     ジャズ・バーで一目ぼれしたサックス奏者への想いが募り、真夜中
     にその儀式をすれば鏡の中に想い人との将来が見えるという占いを
     試した香奈子。
     彼の生い立ちを知り、自分こそそれを理解して支えられるという信
     念に憑かれた彼女は、やがてその鏡に見たものに浸食され壊れていく。
     鏡の呪縛から逃れるには、映ったものを自らの手にかけなければなら
     ない。彼女の行動がもたらした現実とは――。
 自らを映しながら現実ではない鏡の持つ妖しさから生まれた都市伝説を使い、想いを狂気へと変貌させていく女の恋慕の際限のなさを恐ろしくて哀しいミステリ的な結末に導いていく表題作「ふちなしのかがみ」

     体の弱いキョウスケといることでクラスのみそっかすである自分に
     焦りと不安を持つシンジは、級友に一目置かれたい一心で“ゆう
     ちゃん”という隣町にいる架空のスーパースターを作り上げる。
     自らの理想を形にすることに酔っていた彼だが、クラスメイトは
     嘘を見抜いていた。なお級友との距離が大きくなりかけた夏休み、
     天変地異を願っていたシンジの前に、本当に“ゆうちゃん”が現れた――。
 子どもたちがその生きる世界でポジショニングを確保するために苦闘する心理と、悲しくほろ苦くも温かい現実を、ひと夏の出来事とセミの生きざまに重ねた追想譚「八月の天変地異」

 いずれも、ホラーでありながら現実にきっちりと結びつけた骨格を持つ、ミステリ的要素とのバランスが絶妙な短編としてまとまっている。
 この微妙なスタンスの取り方がとても巧妙で、非現実的な現象ゆえに、より濃く縁どられた圧倒的な“リアル”が描かれていく。

 殊に学校という社会に生きる子どもたちを描く3作は、彼らがその中でいかに必死に自らの居場所を“より高い地位で”獲得していくことに心を砕いているかが、そのために非情で過酷な彼らの現実やルールの中で戦っているのかが、とても細やかに描かれており、痛々しく切ない世界が展開する。
 だからこそ、怪異や占い・おまじない、そして祈りが、切実な拠り所として屹立し、物語が活きてくる。

 ミステリ的な趣がより強いのは「踊り場の花子さん」「ふちなしのかがみ」。その落としどころはわりと早めに読めるものの、ホラーとしての不気味さが加味されるので、興ざめにはならない。
 また、最後にどこか救われる光を残しているという点で「八月の天変地異」が、辻村氏に対する(私の)印象にもっとも“らしい”作品だったか。

 ひときわ異彩を放っているのが「おとうさん、したいがあるよ」だ。
 次々と現れる死体やその臭気など、描かれる情景は他の作品にずば抜けて存在感と物質性を持っているのに、その世界は不条理に満ちている。まさに“シュールレアリスム”的な作品だ。
 「ブランコをこぐ足」とともに結末が、読者の想像力に大きく委ねられるぶつ切りな印象を与えるのもまた、奇妙な不安と安堵を同時にもたらしている。
 この“シュール”さのインパクトは、今後の氏の作品の方向が楽しみなところかも。

 プロットはもちろんだが、非常に細かい描写のすみずみまで組み立てられ、活かされている、作為を感じさせずに練られた5編だ。
 怪奇現象にゾッとする、というよりも、ジワジワと不安を起こさせる“怪談”。
 本当に怖くて悲しいのは、やはり怪異を見、あるいは使おうとして自らを堕としてしまう、人間の“想い”ではなかろうか。
 なかなかに楽しめる“辻村流”ホラー。こういうのはけっこう好み♪


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ジャンル : 小説・文学

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